2話
「不倫じゃなかったとしたら?」
「不倫じゃないとしたら、何をしてるのか突き止めて下さい。やましい関係じゃないなら…良いですね」
晃がにっこりと笑った。むつは、手に取ったグラスの中身を晃の顔に向けて引っかけた。パシャッという音と共に、甘くなったアイスティーで晃は顔もスーツもびっしょりと濡れた。
むつは静かにグラスをテーブルに戻し、腕と足を組んでソファーの背もたれに深く寄りかかった。
晃の隣に座っていた篠田が、慌てておしぼりでアイスティーを拭おうとしたが、晃がそれをせいした。そして、肩や膝の上に乗った細かい氷を手で払った。
「不愉快ですね…警視正だか何だか知らないけど何様?うちの山上はだらしないけど、そんな真似はしないわよ。はなっから不倫だなんて、決めつけないで貰いたいね。それこそ、何か証拠でもあんの?つーか、あたしは沼井さんとは知り合いでもなんでもないし、その辺の探偵を雇えば良いでしょ?」
意外と落ち着いた声で、むつはゆっくりと話ている。だか、それがかえって怒ってるんだというのが感じられた。
「それに、依頼をしたいというのに本人がこの場にいらっしゃらないというのは…失礼じゃありません?本人からのお話でない以上、お断りします」
むつが立ち上がると、晃は肩を揺らしてくっくっと笑っていた。