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2話
西原とむつが揃ってホテルのロビーに入ると、早速2人を見付けた篠田が駆け寄ってきた。その顔は少しだけ緊張しているように、固い表情だった。
「むつさんも西原君も忙しい所をお呼び立てして、申し訳ありません」
篠田が腰を折って頭を下げると、西原が慌てて顔を上げるように言った。むつもこんな人目のある所で、年長者に頭を下げられ、周りの目を気にしてしまい慌てた。
「篠田さん、それより…お話というのは?」
「あぁ。もう宮前君も来てるから、行きましょうか…はぁ、本当に申し訳ない」
疲れているのか、篠田の目の下には隈が出来ていた。
むつと西原は、篠田に案内されエレベータに乗り客室のある階で降りた。むつは、きょろきょろしながら篠田について行った。廊下を歩いてもドアはなく、奥に1つのドアがあるだけだった。
「スイートってやつか?」
「かもしれない」
こういう、お高いホテルに縁のないむつと西原は緊張と好奇心で、いっぱいになっていた。