8話
むつが言うと、沼井は手を振り上げて人形を壁に叩きつけるようにして落とした。むつは、溜め息をついてそれを拾い上げると、子供を抱くようにして持ち上げた。
「嫌味で卑屈な役所、これがあなたですよ。あなたは、この人形との契約をさせられたのです…誰とは言いませんが」
「契約だと?」
「えぇ。彼らに願いを叶えて貰うと引き換えに身体の一部を彼らに渡す…そういう契約です。だから、身体の一部が動かなくなっているのですよ」
「どうすればいい?」
「この人形を始末すれば…ですが、これは浄瑠璃人形。そこそこの値がしますので、ね」
簡単には壊せませんね、とむつが呟いた。すると、沼井はドアの近くに待機していた男を呼んだ。そして、布に包まれた物をむつに渡すように指示した。
人形を抱いたまま、むつはそれを受け取りその場で包みを開け中身を確認した。
「金さえあれば何でも出来ると思うのも、あながち間違いではないのかもしれませんが…」
そう言うと、むつは人形を片手で持ち上げてぶらぶらさせて、人形は抵抗するように手足をばたつかせている。
晃も沼井も何も言わずに、むつをじっと見ていた。むつは2人の視線を気にする事なく、人形の頭に手を伸ばすと首を取った。