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8話
こほん、とわざとらしく言う咳払いなんて無いぞ、と思いながらぎこちなく振り向いて下からゆっくり顔を上げた。
「西原君?」
腕を組んで、西原を見下ろしている怖い顔を見て、西原は慌てて立ち上がった。
「けっ警視正っ」
「なーに、してんのかな?」
慌てたせいか、むつを突き飛ばすような形になり、むつが倒れそうになると横から伸びてきた腕がそれを受け止めた。
「み、宮前さんも…」
冬四郎は怖い顔はしていなかったが、それでも責めるような目をして西原を見ていた。
「まぁまぁ、キスもしたくなるって。むつ、可愛いもん」
冬四郎の横からもう1人、冬四郎が出てきて西原はぎょっとしたが、あぁと思った。もう1人の冬四郎が、むつの頬をぷにぷにとつついて起こしていた。
「おはよう、むつ」
「…源太。その顔気に入った?」
「何ですぐに分かっちゃうかなぁ。次は、そっちの怖い顔の人にしようかな」




