8話
病院から出ようとしていたむつだったが、病院服のままである事に気付くとつまらなさそうに、溜め息をついた。
「むつ?」
「ん、あっ‼とし君」
ぱっと嬉しそうな顔をしたむつは、西原の所にぱたぱたとスリッパを鳴らして駆け寄った。
「病室に内で走るな」
注意をされたにも関わらず、むつは嬉しそうな顔をしている。西原には、それが何だか気持ち悪く思えたのか眉間にシワを寄せていた。
「本物か?病院嫌で源太と入れ替わったり何て…してなさそうだな」
だんだんと不機嫌そうになっていくむつを見て、西原は笑ってみせた。そして、痛そうに腫れている頬をつついた。
「もう‼どーせりんごみたいに真ん丸ですよ‼名前もむつだしね‼」
「何怒ってんだ?真ん丸で可愛いのに」
西原がそう言うと、むつはゆっくりと顔を赤くしていった。そんなむつを見て、本当にりんごみたいだな、と西原は思ったが口には出さなかった。
「で、何してんだ?眠くないのか?」
「眠いけど…まぁちょっとね、空気を読んでやったのさ。先輩こそ何してるの?」
「あぁ、湯野さんがよろず屋の方で客があるからって、迎えを頼まれてさ」
「ふーん?とりあえず座ろ」




