8話
むつと山上は、一言も交わす事なく互いに背を向けてほんの数時間眠ると、看護師に起こされ寝惚けたまま朝食を取った。
朝一からむつは検査をし、夕方までには帰れるという藤原の言葉を聞き、喜んだがそれまで山上と一緒に過ごすのは何だか気まずかった。
検査を終えて病室に戻ると、疲れきっているのか山上は、ぐっすりと眠っていた。むつは、そっと顔を覗き込み、布団をかけてやると、静かに部屋を出た。そして、ドアの前に立ったまま何処で時間を潰そうかと考えていると、廊下を歩いてくる女性に気が付いた。
ゆったりとした足取りは、むつの前で止まった。むつは、何だろうと顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。
「沼井、かずえさん?」
「えぇ。むつさんね?この度は、主人共々ご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした」
ふっくらとした、だが顔はほっそりとした女性が深々と頭を下げてきた。むつは、顔の前で両手を振るとすぐにかずえに顔を上げるよう頼んだ。
「わたしは、そんなに…」
「けど、そのせいで山上さんにも殴られちゃったんでしょう?…ごめんなさいね。けど、りんごちゃんみたいで可愛いほっぺね」




