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7話
客席の前の部分には、観客がいるのかちらほらと埋まっているようだった。そして、舞台にいるのは沼井かずえと山上、それから人形が1体。
むつは通路を歩き、舞台に近付こうとしたが客席に座っていた人形たちが、がたがたと立ち上がりむつの前に出てきた。舞台には、近寄らせないつもりのようだった。
「むっちゃん、先に行く?」
「出来れば。けど1人で行くの?」
いつの間にか、むつのすぐ後ろに居た颯介が舞台に居る山上をじっと見ていた。寝かされているせいか、息があるのかないのかも、よく分からない。
「まぁ…すぐに行くなら1人でかな」
「どうやって?」
人形たちは、立ちはだかってはいるが近付いてはこない。ただ、そこに立ちむつたちの方を向いているだけだった。
「飛ぶ?」
「飛ぶ?羽根でもつけてくれるの?」
「投げてあげる。俺の手を踏み台にして…もう少し舞台に近ければ届くんじゃないかな」
ふっと鼻で笑ったむつは、振り向いた。颯介はいたって真面目な顔をしている。




