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7話
「大丈夫か?」
「うん、ありがと」
むつは冬四郎のジャケットに飛んだ火の粉を、ぱんぱんっと手で叩いて落とした。どこにも燃え移ったりはしなかった。
そうっと手を伸ばして、取っ手に触ったがさっきのように、ばちっと静電気のような物が走る事はない。むつは両手で、取っ手を掴むと思いきり開け放った。
ばんっと大きな音と共に開いた扉から、むつは堂々と入っていく。
祐斗は、むつの大胆な行動を見てうわーと小声で言ったものの、日本刀を預かっているからか、離れないように後をついて行った。
ホールの中は、舞台にしか明かりが点いていない。客席部分の電気は、足元の僅かな明かりだけだった。
むつは、演劇が行われている最中のようなホールに後から入ってきたような後ろめたさも気まずさも感じていないようだった。




