2話
「ブラックでいい?」
「ん、ありがと」
むつがマグカップを渡すと西原は、ふうふうしながら飲んだ。むつは西原の隣、誰にも使われる事のない椅子に座った。
「まだ、誰も来ないか?」
「うん…そうね、後30分は来ないかな。で、酔っ払い作戦は不発だったの?」
「まぁな、篠田さんには当たり障りなく逃げられた感じだな。まぁ嘘じゃないんだろうけど…そっちは?」
温かいマグカップを両手で包み、両肘をデスクに置いてきてむつは、うーんと唸った。
「微妙かな…まぁ仕事の依頼をしたいから、篠田さんに頼んで引き合わせて貰ったって聞いたけど」
西原はむつが一言一言をゆっくり話すのを聞いていた。言葉を選び、考えながら話しているな、と感じていた。
「…って言って納得しないでしょ?」
「まぁな。警視正からの仕事の依頼か?」
むつは首を横に振った。
「そこまでは…あたしに分かんないよーっ。今日休みなんでしょ?並んで来てよ、そのおはぎ屋さん何時から?」
真剣な口調だったが語尾に近付くにつれ砕けた、軽い調子に変わっていった。そして、人差し指を唇に押し当てた。続けて、その人差し指をドアの方に向けた。誰か居る、という事らしい。
「な、何時からだっけな?けどさぁ女の子ばっかりなんだよ。一緒に並んでくれよ‼だから、わざわざ来たっつーのに」
「はぁ?仕事だってーのもぅ」
全然違う話をしながら、2人はわざとらしく騒いでいたがその顔は真顔だった。