32/410
2話
翌朝、こっそり起きたむつは、泊まった兄たちの為に朝食の支度とシャツのアイロンがけをするとメモを置いて出てきた。
遅くまで起きていたせいで、かなり眠い。何度も欠伸が出て、そのたびに目尻に溜まった涙を拭った。
電車を降りコンビニで飲み物とタバコを買い、よろず屋のあるビルに入った。エレベータで上がり、ドアが見えてくると、むつは足を止めた。
壁に寄り掛かっている男に気付いたからだ。まだ誰も居ないから、廊下の電気もついていない。薄暗い廊下に立っていた男は、むつを見付けると手を上げた。
「どうしたの?こんな朝から」
がちゃがちゃと鍵を開けると、立っていた男、西原に入るように促した。
「ちょっとな」
「コーヒーで良い?適当に座ってて。すぐにいれるよ」
仕事は休みなのか、ジーンズにパーカーというラフな姿の西原は、いつもむつが使っているデスクの前まで行くとどかっと椅子に座った。
「そこ?ま、良いけど…」
不機嫌そうな西原を見て、むつは困ったように笑いながら、倉庫にあるロッカーに鞄を置くと、キッチンに入った。