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6話
西原が本気で偽者の冬四郎と殴りあっている間に、むつは颯介の袖を引っ張ると何かを耳打ちした。颯介は、きょとんとしていたが、頷くと気付かれないように偽者の冬四郎の後ろに回った。
颯介はタイミングを見計らって、偽者の冬四郎の両脇に腕を入れると、羽交い締めにした。
「なっ、狡いぞ2人係りは‼」
ばたばたと暴れたが、力では颯介も負けていない。颯介が押さえ付けている間に、むつが手にしていた札を胸の辺りに張った。
「動きを禁ず」
むつがそう言うと、ばたばたとされていた手足をだらんとさせて、偽者の冬四郎は動かなくなった。
「放して大丈夫…たぶん」
颯介が放れると、偽者の冬四郎はかしゃんかしゃんと音を立てて床に落ちた。
「人形…?」
「だね」
サイズの合わないシャツやズボンを身に付けた、木と糸で出来た人形が床に転がっていた。
「不審者の正体はこれか」
「先輩、大丈夫?祐斗も…立てる?」
むつは祐斗の手を取り引っ張って起こそうとしたが、踏ん張りが足らなかったのか、祐斗に引っ張られるようにして転んだ。




