1話
「帰ったんですか?」
「あぁ、むつさんを送ってそのまま帰るそうだよ」
冬四郎は、そうですかと返事をしながら微かに振るえた携帯を確認した。むつからのメールをさっと読んで、どのタイミングで帰ろうかと思案し始めた。
酔っぱらってる西原だけならともかく、篠田が居ては今すぐに帰るわけにもいかない。新しくきたハイボールを呑みながら、冬四郎は時間が経つのを待つしかなかった。
「ふーん?そう言えば篠田さん」
氷水の効果か、むつが帰ったからか落ち着きを取り戻した西原が思い出したかのように言った。
「何の為の食事会だったんですか?」
篠田は答えにつまるように、黙った。
「あ、別に篠田さんのご好意で呼んで頂いたって言うなら、あれなんですけど…むつも呼ばれて引き合わされた感じがあったんで、何か理由があるのかと」
酒が入ってもしっかりしてるな、と冬四郎は感心していた。
「宮前警視正から食事に誘われてね。それで、何人か連れてきて良いって言われたから。親しくさせて貰っている西原君たちをと思って。むつさんは、個人的に紹介したかったからだよ」
篠田が嘘をついているとは西原も思っていないようだが、どことなく納得していない雰囲気だった。だが親しくという、言葉を聞き素直に喜んでいる。それを分かっているうえで篠田は、不安がるように迷惑だったかな?と聞いていた。
冬四郎はそのやり取りを見て、篠田も凄いなと感心していた。
「迷惑だなんて全然思ってませんよ。ただ、びっくりしたんですよ」
「だろうね。僕も急に警視正から食事に誘われた時はびっくりしたし、焦ったよ…けど、2人に来て貰って良かった」
これは篠田の本心だった。




