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1話
いつもと変わらない、少しひややかな表情をしたむつは颯介と山上を交互に見た。
「いや…なんつーか、なぁ湯野ちゃんよ」
「えっ‼あ、はい…暇だなと思って。むっちゃんの方、手伝おうか?」
颯介は山上の脇腹を肘でつついている。それはむつには見えていない。2人のよそよそしい態度が気にはなったが、むつは深く首を傾げるだけだった。
「んーん、大丈夫。もう終わりそう」
「そっか…」
尚も何かを言いたそうにしている颯介を見て、むつはイヤホンを両方外した。
「何?どしたの?」
「手伝う事ないなら…うん、何でもない」
むつはもう1度、颯介と山上は見比べた。だが、追求する事なくイヤホンを耳につけると、またぱちぱちとキーボードを叩き始めた。
「何で、ご機嫌な理由聞かないんだよ」
「聞けるわきゃあないでしょ‼」
2人は小声で、文句を言い合いながら機嫌の良いむつをこっそりと観察し続けた。