1話
むつがやんわりとだが、厳しく言うと西原は大人しく水を飲んだ。
「良いんですか?こっちに来ていて」
「えぇ。何か遥和さんがお店終ったみたいで顔だしてるんですよ。それで、話してるんで抜けて来ちゃいました」
ふふっとむつは笑うとナッツの盛られたボウルを傾けたりしている。
「うっわ、カシューナッツがない。どうせ先輩でしょ?」
「はいはい、どーせ俺が選んで食べきったんですよーだ。はーいはい」
「何?珍しい本当に酔ってるんだ?どうしたの?体調悪かった?」
少し笑ったむつだったが、心配そうに西原の顔を覗き込んでいる。だが、西原はぷいっと顔を背けた。
「え、何?怒ってるの?」
訳が分からないむつは、どういう事かと冬四郎と篠田の方を見た。だが、2人とも困ったように笑うばかりだった。
「むつ、警視正殿と先に帰るのか?」
あまりにも直球するぎる西原の質問に、篠田が慌てている。だが、むつは首を傾げただけだった。
「むつ‼呑んだ勢いとかは、絶対に良くないと思うぞ‼確かに肩書きは低いけど、ぜーったいに俺とか宮前さんとか篠田さんのが良い男だと思う」
がしっと肩を掴まれたむつは、西原の手を取って握ると自分の膝の上に置いた。そして、にっこりと満面の笑みを浮かべた。冬四郎は、そうされて安心したように笑みを浮かべる西原を哀れむように見ていた。
「あほか」
一瞬のうちに真顔に戻り鼻で笑うと、そう言い放ち盆を持って、さっさと戻っていった。