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6話
証拠も何もなかったが、むつにはそれが正しい事だと思えた。山上が昔、付き合っていた人。だから、自身を犠牲にしてるのではないかと、むつは思った。山上は病院に居るはずだから、人形たちとやり取りをする事は出来ないはずだ。
他人を犠牲にしてまで、手に入れたい物があの女性にあるのだろうか、むつはぐるぐると考えていた。
だが、他人の考える事はむつには分からない。そうまでして、欲しい物もない。何も思い付かないまま、とりあえず祐斗にご飯を作ると言った事を思い出した。先ずはそっちから、と冷蔵庫を開けようと足を踏み出した所で、視界が揺れる感じがした。
転ぶような気がして、どこかに掴まろうと手を伸ばしたが、何かに触れたが掴む事は出来なかった。
むつの目にはマグカップが横切っていくように、見えていた。




