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6話
冬四郎の顔がゆっくりと近付いてくると、むつは怖くなった。これは、冬四郎じゃない。そう思うと、心臓がどくどくと警告を鳴らすように鼓動した。
「いっ」
大きな声を出そうとしたつもりだったが、上手く声が出ない。焦ったむつは、固まったように動けなくなった。
顔を少し上に向けるように持ち上げられ、むつは冬四郎の手を掴んで爪をたてた。
「きっ、きゃぁぁあ‼」
ぎゅっと目を粒って口を開くと、自分の声かと疑問に思うような悲鳴があがった。
そして目を開けた時には、布団を跳ねあげて飛び起き、ごちんっと何か固い物で頭を打って、再びベッドに倒れた。
「いってぇ…」
「…っう」
むつは打った頭を押さえながら、ゆっくりと目を開けた。視界にはまだ明るい部屋の天井が見えた。何で頭を打ったのか分からず、むつがゆっくり起き上がるとベッドの脇で頭を押さえてうずくまっている祐斗が居た。
「いったいっすよ」
「何だ…祐斗か…何してんのよ」
ベッドから足を下ろして、祐斗を見ると祐斗は涙目になりながらむつを見上げた。




