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6話
「何?熱は、ないってば」
むつは冬四郎の手から逃れようと、顔を背けた。さっきは、額をつけて熱を計ったりしたというのに、今は何だか嫌だった。
「俺に触られんの嫌か?」
悲しそうな冬四郎の目を見て、罪悪感と共に何とも言えない落ち着かない気分になっていた。
距離を縮めしようとしてくる冬四郎から離れるように、むつは少し尻をずらして逃げた。自分でも何で逃げるのか分からなかった。
「むつ」
再びむつの顔に冬四郎の手が触れた。背けた顔を持ち上げられ、むつは冬四郎の顔を正面から見る形になって、どうしたら良いのか分からず、きょろきょろとしてしまった。
そして、その時に気付いた。
左目も見えている事に。




