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1話
「まぁ…いい。その方が都合がいい」
「都合?誰の?何の話をしてるの?」
晃の考えてる事がさっぱり分からず、むつはカウンターに肘を置いて手に顎を乗せた。
篠田と西原の視線を感じつつ、晃はふっと笑みを浮かべた。その笑みは、悪い事を考えている時の、にやっとした笑い方に近い。
「なぁ、むつ?」
むつが座っている椅子の背もたれに手を置き、くるっと回して自分の方を向かせた。
「帰りたいから、協力してくれ」
「何であんな社交辞令言ったのよ?」
「何か言わないと悪いかと…」
「なるほどね。まぁ良いけど…」
むつは意味ありげに晃をじっと見た。
「むつ、こういう時はな頬に手を添えるのが良いんだぞ?」
「ん?こう?」
首を傾げながらも、素直に片手を晃の頬を包むように添えた。
「で、見返りの話だろ?」
晃はむつの手の上に自分の手を重ねた。
「話すって事で、どうだ?冬四郎に少し話してむつに言わないじゃ不公平だしな」
「おっけ、協力する」