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5話
むつは西原の手から携帯を取ると、留守電にして、また返した。
「お前、宮前さんに冷たくないか?」
「冷たくない」
「冷たいというか、扱いが酷いよね。さて、宮前さんが可哀想だし出ようか」
伝票を掴むと、むつはさっさとレジに向かって行った。西原が自分の分を出そうとしたが、むつがそれを無視した。
「ご馳走さま…です」
「嫌そうな顔ね…あのさ、こっちの仕事に協力して貰ってるのよ?どうせ経費で落としちゃうから、そんな顔しないで」
「そうそう。うちの社長に付き添って貰ったりしてるんですから、気にしないでください」
颯介に言われると、西原は照れたような、申し訳ないような気持ちになりぺこっと頭を下げた。
「もうしばらく、協力して貰う事もあるかもしれないしね」
むつがそう言うと、西原は少し驚いたように目を見開いたが、にっこりと笑みを浮かべると頷いた。
しっかりとレシートを受け取ったむつは、財布をしまうと店を出ていった。
そろそろ夕方になる頃で、空は少しだけ暗くなってきて、気温も下がってきている。むつは寒いのか、パーカーのチャックを首まで上げた。




