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5話
劇場に向かっている車内で、むつは怒ったようにむっつりと黙ったままだった。颯介と祐斗が、むつを気にしてちらちらと見ている事にも気付いていないようだった。
むつを気遣ってかさ、最近はあまり顔を見せていなかった管狐が颯介の襟元から顔を出して、そろそろとむつの膝の上に乗った。いつもなら、むつはすぐに撫でたりしていたが、今日はそれさえしなかった。まるで、管狐が居る事にさえ気付いていないようだった。
焦れたのか、管狐がむつの指に顔を押し付けると、むつはようやく気付いたといった風に、疲れたような笑みを浮かべると小さな頭を撫でた。
そんなむつの様子を運転席に居る、颯介がそっと観察していた。
「むっちゃん?何か気がかりでもあるの?」
「まぁ…ね。社長大丈夫かなー?とか劇場の人は大丈夫かなー?とか…藤原君に任せて良かったか不安だな」
「後輩って事はなったばかり、か。何科の先生なの?」
「心臓内外、だったと思う。忘れたけど」
「あぁ、そりゃ心配にもなるね」




