1話
晃に続いて喫煙ルームに入った冬四郎は、椅子に座り自分もタバコに火をつけた。
「ん、待った。何で西原君がむつの元彼だって分かった?俺は名前まで言ってないぞ」
「むつの態度で何となく。やっぱり、そうだったみたいだな…それにしても西原君には悪かったかな。緊張してるみたいで、あれじゃ折角の飯の味も分かんなかっただろうな」
煙を吐き出しながら、悪戯っ子のようにくっくっくと晃が笑うのを冬四郎は、呆れたように見ていた。
「このあと呑みに、とか言ったけど…ばっくれてぇなぁ…呑むならむつとお前だけで良いんだよなぁ」
「じゃ、何で言ったんだよ」
「そりゃあ…社交辞令ってやつだ」
「立場の上の人間からの誘いを、篠田さんが断れるわけないだろ」
「だよなぁ。律儀な男だよ…っとむつだ。んー?探してるみたいだけど、気付かないっぽいな」
2人の所からは、むつがきょろきょろと辺りを見回しているのが見えた。だが、むつは2人が喫煙ルームに居ることには気付かないようで、むくれたような顔をして去っていくのが見えていた。
「なぁそれで?警官をって事は内部の面倒事で、むつになら何とか出来るような事なのか?」
「あぁ、まぁ元警官の事でだな」
「ふーん?で、俺と篠田さんと西原君か。何も兄さんがむつを直接その人に紹介しても…篠田さんを挟んだのは、もしかして篠田さんの知ってる人でもあるな?」
「そうだよ。冬四郎も仕事ばっかりなんだな…今日は話さないでおくよ。篠田君にも顔合わせって伝えてるからな。さて、戻るか」
吸い殻を捨て晃は立ち上がった。冬四郎はもう一口吸うと、吸い殻を捨て溜め息と一緒に煙を吐き出した。