5話
むつは照れたように、へへっと笑っているが、西原は冷静では居られなかった。言われている事は、分かっている。だが、どうにも理解したくない自分が居る反面、安心したような自分も居た。
「ん、待った。お前、玉奥って名乗ってたんじゃないっけ?」
「うん。玉奥は、本当の両親の姓。あたし養女なの、両親とは死別…ほら」
むつは財布から免許証を取り出して、西原に渡した。免許証には、しっかりと宮前むつと表記されている。
「何で、本名じゃなく…旧姓っていうか…玉奥を名乗ってんだ?」
「反抗心?まぁ…養子離縁したいってのもあってね。それは、宮前の両親にもしろーちゃんにも話してあるよ」
免許証を返して貰ったむつは、財布にしまった。そして、西原の顔をじっと見た。
「何つーか…悪いかった。立ち入った事を聞いて。けど、教えて貰えて良かったとも思ってる…ありがとうな」
「初めてよねぇ先輩がそうやって、個人的な事を聞いてくるのって…今まで、まぁ学生時代を含めて…興味持たれてないのかと思った時もあったから」
「いや、そうじゃない。聞きたくても、聞かれたら嫌な事ってあるだろ?お前はそれが多い気がしてたから」
「あ、それは正解。けど、もぅ大人だし、颯介さんと祐斗は知ってるから…ついでに、宮前晃警視正はうちの長男ね。全部、篠田さんには言わないでよ?先輩だから話したんだからね」




