1話
珍しくも兄が口ごもるのをむつと冬四郎が、不思議そうに見ていた。
「ま、元彼も見たかったからついでにね。…にしても、むつ。ちょっと襟開きすぎじゃないか?可愛いけど。髪も巻いたのか?大変だったろ?」
晃に巻いた髪の毛をいじられ、上から下までチェックするように見られ、むつは嫌そうな顔をしていた。
「お、睫毛までつけて…睫毛はお前長いからつけなくて良いだろうに」
「ちょっと、そんなチェックをする為に一緒に席を立ったの?」
「お前らが立つからついてきた。むつは?」
「お手洗い行ってくる」
そう言い、むつは兄2人を残してお手洗いへ入っていった。むつの後ろ姿が見えなくなると、冬四郎は溜め息をついた。
「兄さん。本当の用は?」
「面倒事があってな。それをむつに頼もうかと思って…一応、篠田君には話してあるんだが…悩んでる」
「頼むかどうかを?」
「そうだ。今日すぐじゃなくても良いかなと思ってる。一応、むつの周りで警官をって話でお前と西原君も呼び出して貰ったんだよ…タバコ持ってるか?」
お手洗いの前に喫煙ルームがあるのに気付き、晃は冬四郎からタバコを受け取るとさっさと中に入った。
「何も、篠田さんを挟まなくても良かったんじゃないの?」
「いや、むつとお前と兄弟なのを篠田君は知らないからな。俺とお前は良いとして、むつと兄弟なのが知られるのは…何かむつが嫌がりそうだろ?名字だって、玉奥って篠田君に名乗ってんだしな。まさか、妹の名刺を貰う日が来るとは思わなかったよ」