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5話
「何で…そんな事したんだ?」
「あそこから出る為と社長が死にそうだったから。…次、あの人の所に手紙が届いたら、死ぬ。もうほっといても死ぬんだろうけど」
意外にもむつが、あっさりと答えると西原は何と返事をしたら良いものかと、口ごもった。
「あの劇場から出れそうになかったのか?それに、何で山上さんが?」
「まぁ焼き尽くしちゃえば良かったのかもしれないけど…働いてるスタッフとか観客が無駄に死ぬ事になるし。何か出れる自信無かったなぁ」
むつはタバコに火をつけると、立ち上がって、少しだけ窓を開けた。ひんやりとした夜の風が、カーテンを揺らしている。
「社長の事も分からない…一緒に居たはずの女がどうなったかも分からない。ってより、代償がどのくらいになるか分からないから、社長を連れ出す事だけを選んだの」
「何とか出来たら、目も耳も、山上さんも元に戻るのか?」
本当に分からないのか、むつはタバコを灰皿に置いて首を傾げた。今度は落とさずに、ちゃんと置けた。




