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5話
「その前にお茶くらい淹れるよ…喉乾いた。お腹も空いちゃったし」
むつはそう言いながら、キッチンに入っていくとお湯を沸かし始めた。お盆にマグカップを並べて、スプーンでインスタントコーヒーを入れお湯を注ぐ。
少し首を傾げたむつは、そっとお盆を掴むとリビングに持っていった。重たいしゆっくりと置いたつもりだったが、がちゃんっとマグカップが鳴ってしまい、むつは驚いた。
「ごめーん。あとねぇ…」
鞄を引き寄せ中から、洞窟に行った時の饅頭と劇場で買ってきたクッキーを出した。
「お土産。祐斗開けて」
「むっちゃん、まぁまぁ楽しんでる?」
颯介に呆れたように言われ、むつはへへっと笑うだけで何も言わなかった。
「お前、どんだけ湯野さんたちに心配かけたと思ってるんだよ」
「それは、うん…ごめんなさい。何だろうね、今回は何かヤバかったな。札も持ってくの忘れてたし」
むつは、自身の事なのに不思議そうに言いながらコーヒーをすすった。
「あっち」
意外と唇に触れる量が多かったのか、慌ててマグカップを離すと、下唇を撫でていた。




