5話
「警察に通報した方が…」
祐斗の不安そうな声に、颯介と西原も同意しかけたが、颯介は首を横に振った。
「もう少し待とう。むっちゃんからの連絡があるまでは」
「けど、そんな悠長に待ってて大丈夫なんですか?電話にも出ないって事は、ヤバいんじゃないですか?」
「祐斗君の言う事も分かるけど…警察が動いた所で役には立つと思う?」
西原の自虐的な言い方に、祐斗は黙った。
「西原さんの言う通り。…普通じゃない状況下だからね」
颯介が西原には好印象を抱いているのか、優しげにフォローをしている。西原はそれを分かって、笑みを浮かべると軽く頭を下げた。
「待つ事しか出来ないって事ですか?」
「今はね。見た感じ、中の電気系統はみんな作動してなさそうだから、いざとなればドアを壊すくらいは出来るよ」
「うーん、警官としては止めたい所業ではありますね」
「最終手段ですよ、最終。流石に西原さんにお手伝い頂こうとは思ってませんよ」
「楽しそうなんで、いっちょがみしたい気持ちはありますけどねぇ」
颯介と西原は、世間話でもするように、にこやかに話している。祐斗には、会話に加わるような余裕はないというのに。だが、2人共にこやかではあるものの、目だけは何も見逃すまいとしてか、劇場をしっかりととらえていた。




