1話
2人の様子には目もくれず、むつは長い爪で器用にキーボードを叩き時折、時間を気にしている。
颯介と山上は、そんな様子のおかしいむつがイヤホンをしながら仕事をしようと、鼻唄を歌っていようが注意をする事はなかった。特に依頼も何もない、というのもあったが、話し掛けるのが何だか躊躇われた。
「みやと進展あったのかな?」
「いやーないでしょう。のろのろ亀さんですよ?むっちゃん意外とそーゆー事は奥手っぽいですし」
「いや、けど…おっかしいだろ?あの爪見たか?ネイルしてあるぞ」
「そうなんですよ。あのむっちゃんが」
颯介と山上は、むつの手元をそっと覗くようにして腰を少し浮かせた。
「きらっきらしてる」
「きらっきらでしたね。派手すぎないし…良いんじゃないですか?女の子ですし」
「いやーでも、なぁ…ん?ネイルまでしてるって事は何か前以て予定が入ってて、楽しみにしてるって事だろ?」
「まぁ今日でしょうね。鼻唄なんか歌っちゃってますよ」
「楽しみで仕方ない、とな…やっぱり男か?」
「可能性はあるでしょうけど…けど、宮前さんにしろ西原さんにしろ、むっちゃん化粧をちゃんとする程度じゃないですか」
颯介と山上は、こそこそと話ながら再びむつを見た。目の前で、こそこそされているせいか、流石に2人の視線に気付いたむつは顔をあげた。
「なーにー?」
自分の事を言われているとは、思ってもいないのかイヤホンを外して首を傾げている。