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5話
むつが居るはずの劇場に着いた颯介は、何度目かの電話をむつにかけていた。コール音がするばかりで、出る気配はない。
留守番電話に切り替わると、颯介は溜め息をついて電話を切った。時刻は22時になろうとしている。流石にこの時間ともなれば、閉館していて当たり前だと思う。だが、外観を照らす明かりはついている。それなのに、玄関ホールのシャッターは下りていない。
まだ閉館したわけではない様子だった。何より、玄関の自動ドアから館内を覗いた時に非常灯ですら消えていた。何が起きているようではあった。
「湯野さんっ‼」
「どう?」
「ダメです、どのドアも閉まってますね。むつは電話、出ましたか?」
息を切らせて戻ってきた祐斗とは対照的に、西原は息切れ1つしていない。
「出ませんね。何度か掛けたんですが」
「本当にまだ中に?」
「えぇ、おそらくは。むっちゃんがヘルプの電話をして来たのって…初めてな気がするんですよ。なので、本当にまだ…」
「閉じ込められてる、って事か」
西原は、険しい顔をして劇場を睨み付けている。




