1話
はっきり言って、むつにとっては居ずらくつまらない場ではあったが、料理が運ばれてくると、男性陣の会話など全く耳に入らないくらいに、食事に集中していた。
初めて、フレンチのコース料理を体験しているむつにとっては、全てが新鮮でそしてお世辞抜きに美味しかった。
篠田いわく、魚の時に白ワイン、肉の時に赤ワインとワインもその時によって変わったりするのだそうだ。だから、あまり食事を始める前から呑む事はない、と笑っていた。
むつは、ふんふんと聞きながら、魚料理の後のソルベを食べていた。冷たいレモンのシャーベットで口の中がさっぱりする。
続いて運ばれてきた肉料理を口にし、むつは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「んーっ美味しいっ、ねっ…」
斜め前に座っていた宮前に、気軽に声を掛けそうになったむつは、慌てて口を閉じた。それを見て、宮前がくっと笑った。
「本当ですね。玉奥さんは、実に美味しそうに食事をしますね、見ていて気持ちが良いですよ」
宮前にそう言われ、むつは恥ずかしそうに耳を赤くしている。篠田と西原もそんなむつを見て、楽しそうにしていた。冬四郎だけが、しれっと肉を口に運んでいた。
肉料理、チーズ、フルーツが終わるとデザートと共にコーヒーが運ばれてきた。むつは、それもしっかりと胃におさめた。
最後のプチフールも終わり、満足そうにしていると、にこにこした宮前に見られている事にむつは気付いて、慌てて表情を引き締めた。