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4話
視界を確保するだけの明かりを灯すことは、むつにとって造作もない事ではあったが、あえてしなかった。
わざわざ得体の知れない物に、自分の居場所を教えてやる必要はない。だが、そんな事が無意味なのはむつもよく分かっている。妖には真っ暗であろうとも、むつの姿は見えているだろう。
どこから何が来るか分からない状況なだけ、むつの方が分が悪い。だからこそ、その分だけ他に神経を集中させる事が出来た。
壁を伝うように歩きながら、姿を見失った山上と女性の事を思い出した。どこか、違うドアから劇場の裏側にもう1度潜り込んで外に連れ出すべきではないかと、むつは考えていた。
山上ならこの状況を上手く、切り抜けられそうな気もしていたが、マグカップを割った時の右手を動かさなかった事や今日の様子からして、それは難しいのではないかとも思えた。




