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1話
「ご無沙汰しております」
冬四郎は座ったままで薄く口元にだけ、笑みを浮かべ、頭を下げていた。
「で、そちらが西原君です」
西原も立ち上がり席を外れようとしたが、宮前は首を横に振った。そして、やはりその場に立って名刺交換をしていた。
名刺交換が終わると、頃合いを見計らっていたのか京井が使用したグラスを下げ新しいのと交換し、ワインを注いでいった。
5人は軽くグラスを持ち上げ、乾杯と言ってそれぞれ口をつけた。
「それにしても…篠田君から聞いていた玉奥さんはもっと、きりっとしたイメージだったのですが。なかなかどうして、可愛らしい方のようですね」
宮前に笑いかけられ、むつはワイングラスを持ったまま、ぎこちなく笑みを浮かべている。
宮前を中心に仕事の事など、当たり障りのない話をしている男性陣を横目に、むつは早く帰りたいな、と料理が運ばれてきてもいないのに思っていた。




