1話
後から来た男が、むつたちの前を通り篠田の隣に立った。その時に、初めて男の顔を見たむつは、驚いた。
がっちりとした体型に、柔和な笑みを浮かべていたが、その目は鋭い印象だった。
呆然と男を見ていると、男はむつに笑いかけた。そして、座るように促した。むつは、会釈をしたのか頷いたのか自分でも分からなかった。だが、とりあえず座った。
「申し訳ありませんが、先に呑ませて頂いてますよ」
篠田はグラスを持ち上げて、くすっと笑った。
「あぁ、そんな事気にしないで。先に呑んでるように言ったのは、わたしですから…で、そちらの子が?」
「えぇ。あの山上さんの元で働いている、玉奥むつさんです。むつさん、こちら宮前 晃警視正です」
むつはバッグから名刺入れを取り出した、立ち上がり席を外れようとしたが、宮前 晃が手でせいした。
「…では、ここから失礼します。初めまして、玉奥むつです」
「こちらこそ、初めまして。宮前 晃です」
その場で立ち上がった2人は、名刺交換をした。むつは、テーブルの上に名刺を置いて、まじまじと見ている。
「宮前君と西原君の事はご存知ですか?」
「宮前君とは以前にお会いしてます」
宮前が冬四郎の方を見て、にやっと意地の悪い笑みを浮かべたのをむつは、見逃さなかった。




