1話
「それで、篠田さん。まだ呼ばれた理由を伺ってませんが…いったいどういう理由なんですか?むつと西原君も居ますし」
冬四郎はワインに口もつけずに、篠田にたずねた。だが、篠田は薄く笑みを浮かべて首を横に振った。
「それに後1人は誰が来るんですか?」
「それはお会いしたら分かる事だから。呼び立てた理由は、わたしも知らないんだ。これから来る人に、宮前君、西原君、むつさんを呼び出すように頼まれただけで」
誰1人として、呼び出された理由が分からないという状況に、むつは不安を感じていた。だが、それは篠田も同じなのかもしれない。
「そうですか」
冬四郎はそれ以上の追求は無駄と分かったのか、背もたれに身体を預けた。だが、冬四郎の質問に対する答えで、むつは篠田を使う側、篠田よりも立場が上の人間が後からやって来るのだと分かった。冬四郎と西原もそれが分かったのか、少し緊張した面持ちだった。
特に話す事もなく沈黙してしまった。むつは、ワインをちびちび呑み気まずさをまぎらわすように、夜景をぼんやりと眺めていた。
「…いらっしゃったよ」
篠田がそう言い立ち上がった。むつ、冬四郎、西原も立ち上がり振り向いた。誰なのかよく分からなかったが、とりあえず頭を下げた。
「あぁ、そんなにかしこまらないで下さい。こちらが頭を下げなければならない立場ですのに…遅くなってすみませんね。道が混んでたものですから」