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1話
むつは椅子に座り直して、ワインを一口呑んだ。グラスに口紅がうっすらと移った。
「それで、後は誰がいらっしゃるんですか?」
「気になりますか?」
「勿論。篠田さん、ちょっと意地悪ですね。連絡取った時にも何も教えてくださいませんでしたし」
ワインを呑みながら、篠田はすくっと笑った。何を考えているか分からない笑みだ。
「後、3人来ます。そのうちの2人はむつさんもよくご存じの方ですので、ご安心を。もう1人と引き合わせたく、このような席を設けさせて頂きました」
篠田の丁寧な言葉使いはいつもと同じだが、何となく違和感があった。その違和感が、むつには何なのか分からなかった。
むつは言ってみたい事があったが、今は言うのを辞めた。後ろから絨毯を踏んでゆっくり近付いてくる気配に気付いたからだ。
篠田がグラスを置いて立ち上がると、むつも習って立ち上がった。そして、やってきた人物に挨拶をと思い、振り向いてむつは驚いた。
「あっ」
「お、何だ…お前か」
むつは明らかにほっとしたような顔を見せた。