3話
朝、颯介がいつも通りに出社すると、鍵は開いていたものの、電気はついていないし、人の気配もなかった。だが、コーヒーとタバコの匂いがしていた。
キッチンには人の姿はなく、颯介は首を傾げながらデスクに鞄を置いた。
「…おはぁ」
奥からしゃがれた声が微かに聞こえた。颯介は、そうっとパーテーションをどかして、覗くとむつがソファーに座っていた。頭痛でもするのか、額を押さえていた。
「お、おはよう…どうしたの?」
テーブルには灰皿とマグカップ。それに、缶ビールも置いてあった。
「まさか、泊まり?…でもないか。昨日と服は違うもんね。何があったの?」
目の下に隈を作り顔色の悪いむつは、口の端を片方だけ持ち上げて、へっと笑った。
「夜中に出てきて、戸井ちゃんとこが閉まるまで居て…ここに来た」
ぷんっとアルコールの匂いがし、かなり呑んでいたというのが聞かずとも分かる。
「何でまた…」
「昨日、不審者が出た…家に。だから」
「ええっ‼」
驚いて大声を出した颯介に対して、むつが、待ったをするように片手をあげた。
「頭痛いから…たぶん呑みすぎ」
「だろうね…大丈夫?」
「大丈夫…次は…くそったれぶち殺してやる」
しゃがれているうえに低く呻くようにむつが、言うと颯介はごくっと喉を鳴らしてむつをそっと見ているしかなかった。




