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3話
「何だよ?初めてじゃないだろ?」
にやっと笑った冬四郎は、立ち上がるとむつとの距離をつめようと1歩踏み出した。むつは、ぎゅっとペットボトルを握りしめ、後ずさった。
「帰ってくれる?合鍵も置いてけ」
鼻の頭と眉間に深いシワを寄せたむつは、努めて平静を装っていたつもりだが、肩が震えていた。
「何、怒ってんだよ?」
へらへらとした笑みを浮かべた冬四郎が近付いてくると、むつの腕にはびっしりと鳥肌が立った。凄く嫌な感じだった。
むつは、目を反らずに冬四郎をじっと睨み付けていた。冬四郎は何を思ったのか、ふいっとむつから離れると出していたパソコンを鞄にしまい、携帯をつかむと静かに出ていった。
「………」
足音が遠ざかっていくのを待ってから、むつは玄関に行くと鍵を閉めて、チェーンもかけた。そして、ついでのようにドアをがんっと蹴った。踵がじんと痺れるように痛んだが、それでも気はおさまらなかった。




