3話
祐斗が言いかけると、颯介が祐斗の袖を引っ張った。慌てて、祐斗は手で口元を押さえたが遅かった。
「あーそれね」
むつは照れたような、苦笑いのような微妙な笑みを浮かべて見せた。意外な反応に、颯介と祐斗は、おっ?と思った。
「何かあったんすか?」
「んー?実家に帰った時にさ、お兄ちゃんとしてなのか男の人としてなのか、分からなくなった…から」
「そうなの?」
「うん…何か、落ち着いた感じ?こう、波があるのかしらね?」
颯介と祐斗は顔を見合わせた。
「片想いに波ってあるもんすか?」
「さぁ?…むっちゃんの場合は複雑だから、分からないけど」
「ま、それはどうでも良いでしょ?」
話は終わったとばかりに、むつはテーブルの上を片付け始めた。
「ねーねー、それよりおはぎが何で出てきたんすかー?」
「もー知らんがな」
お盆にマグカップと灰皿を乗せると、むつはさっさとキッチンに入っていった。
「あーぁ。怒らせた」
「俺のせいっすか?」
「たぶん、違うかな。おはぎね…よく分からないけど、西原さんがおはぎを買うのに並ぶか否かをむっちゃんに相談したらしいよ」
「?」
颯介の説明を聞くも、祐斗はさっぱり分からないという顔をしていたし、颯介もよく分からない、という顔をしていた。




