1話
「それで、他の方は?」
「まだです。ですが、先に行きましょうか。上のレストランを予約してありますので」
篠田にエスコートされ、むつは大人しくエレベータに乗り込んだ。エレベータの前にもボーイが立っていて、階のボタンを押す事までしてくれた。
凄く贅沢な思いをしているとは分かっていても、むつは不慣れすぎて余計に緊張していた。
エレベータはどんどん上にあがっていく。最上階で止まると、篠田がむつを先に降りるよう促した。
腰に手を回すようにエスコートされながら、むつは篠田が予約を入れているというレストランに入った。
予約席に案内されると、ウエイターが上着まで脱がして、椅子をひいてくれた。むつは篠田と向かい合うように座り、さっと周囲に目を向けた。
「警戒しなくても大丈夫ですよ。ここは、むつさんの知り合いの方が経営しているお店ですから」
「そう、なんですか?」
そんな知り合い居たかな?とむつは首を傾げた。それにしても、高級感のある場所だった。窓からは夜景が一望出来る。
「先に少し呑みますか?何も説明もなくお呼びだてしたせいか、緊張されてるご様子ですし」
「そんなに、分かりますか?」
「えぇ。手と足が一緒に出てましたから」
くすくすと篠田に笑われ、むつは顔を赤くした。篠田からのすぐにウエイターを呼ぶと、ワインを注文した。




