3話
湯飲みをテーブルに戻したむつは、ぼすっとソファーの背もたれに頭をつけた。
「先輩は優しいなぁ相変わらず、ね」
「そうか?」
「うちの2人には黙っとけって言われてるし、遥和さんがどう思うかってのを考えると…何かね」
「遥和さん?あぁ京井さんがどうした?」
背もたれに頭を押し付けたまま、むつは首だけを西原の方に向けた。
「あ、そっか。何も知らないんだっけ…うーんとねぇ、遥和さんはあたしのお母さんの知り合いでもあるの。でね、沼井のせいで殺されかけた人でもあるの」
「ずいぶん、ざっくりな説明だな」
そう言って苦笑いを浮かべるものの、西原は深くは追究してこない。人が言いたくない事を、あえて聞かないのが西原だった。
「そりゃ、京井さん的には面白くないだろうな。けど、だからって俺みたく反対する程、心の狭い人には見えなかったな」
「そうなんだよね。はぁ…悩んでても仕方ないんだけどさ。一緒に働く人の調査とか嘘つくとか…つまんない事したくない」
「隠し事の多いお前が言う事か?」
西原はぬるくなったお茶を飲むと、むつの方を向いた。眼鏡の奥から切れ長の目が、むつを責めるように見ている。
「仕事の事とプライベートは別」




