3話
「お待たせ」
盆をテーブルに置くと、むつは西原の隣に座った。そして、お茶を入れて湯飲みを差し出した。
「話って何?…って聞くのはやぼだな」
ふふっと笑ったむつは、鞄からついさっき銀行で記帳してきた通帳を見せた。
「何だこの額…仕事受けたんだ」
「この金額だしね。社長の不倫疑惑を晴らしてやる為にもね」
むつは熱いお茶をずずっとすすった。濃く淹れたから、渋味と香りが口の中にいつまでも残っている。
「やるんだ…」
「反対?」
「まぁ正直、俺は沼井とそんなに係わりないから、あれだけど。前の事件の事は篠田さんから聞いてるし…そんなヤツの為に何かする気にはなれないしな」
「まぁ…そうね」
「金と山上さん以外にも何か理由でもあんのか?」
兄からの頼みです、とだけは口が避けても言えないむつは、少し黙ってしまった。
「もし、もしもの話な。何か脅されてるっていうか、圧力的なのがあるんだとしたら…相談くらいは乗れるぞ?何か出来るとは断言出来ないけど」
「えっ、あ…そんなんじゃないよ。んー警察上層部?とやらに恩を売るのも悪くないかなって思ったり…かなぁ」
湯飲みを持ったまま、むつは困ったように首を傾げている。西原がそんな風に心配していたとは、思いもしなかったのだ。




