3話
くそじじい、と言いたい所を我慢し、むつは晃にならって愛想笑いを浮かべた。
「始めまして、玉奥むつです」
「変な名前だな」
ふんっと鼻で笑われ、むつは舌打ちをしそうになったが、晃が肘でつついてきたので、どうにか堪えられた。
「で、その子供が山上と妻の不倫を暴いて、わたしに降りかかった怪異を何とかしてくれると?」
「それは、お話を伺ってみたいと何とも言えませんね。不倫はともかく、怪異とはどのような?」
沼井は壁の近くに立っていた男に、向かって指を指して何かを指示した。男は、初めから分かっていたのか備え付けの棚を開けて箱を持ってきた。
男はむつの前に立つと、箱をそっと開けた。中には白い封筒が何枚か入っていた。
「それが届くようになってから、少しずつ身体が動かなくなってきたんだ。今は進行もないが治る事もない」
「拝見します」
箱から封筒を取りだし、むつは中に入っていた手紙を取り出して開いた。
「せい、りつ…これだけ?」
沼井の変わりに立っていた男が、頷くように返事をした。
平仮名でたったの4文字、何の事か分からないむつは、首を傾げながら手紙を裏返したりしてみた。せいりつ、成り立ったという意味しか思い付かなかった。
「身体が動かないというのは、感覚はあるんですか?」
「ない。それは何なんだ?」
「さぁ?この手紙だけでは何とも。嫌がらせとも見えますし、身体が動かなくなってきたのも、精神的な物かもしれませんよ?」




