3話
「何だよ?何、落ち着かないの?」
「えっ、だって…いちにぃの運転初めてだしさぁ。仕事ってなったら1人かぁって思うと何かねぇ…沼井さんとやらも会うの初めてだし緊張する」
それでもむつは、背もたれに身体を預けて、足を伸ばして座っている。視線は落ち着いたが、手はシートベルトをいじったりと落ち着きがない。
「沼井さんな…まぁ良い人ではないかもしれないけどな。仕事なら割り切れるんだよね?」
「そりゃまぁぼったくる勢いのつもりでいるよ?あたしの負担が大きいもん」
「たくましいねぇ」
「そう言えばさ…沼井さんが退職に追い込まれたのって、あたしらのせいでもあるわけよね?それって知ってるの?」
「あーいや?外部の人間が関わったのは知ってるだろうけど、名前や顔は知らないはず。そうじゃなきゃ、危ねぇよ。勿論、冬四郎や篠田が関わったのも伏せてはあるけど、そこは何となく勘づいてるかもな…冬四郎が、後輩を逮捕して芋蔓式って感じに処理されてるけど」
むつは、ふんふんと聞いている。あの事件があった後の事は警察の仕事だからとニュースでも見る事は避けたし、冬四郎に聞く事もしなかった。
今も、自分の顔を沼井に知られているか否かが、気になっただけだった。
「何も気にする事はないだろ」
「はーい。あ、シャツね洗濯して干してるからもうちょっと待っててね」
「あぁ、そんなのいつでも良いよ」




