1話
「ふふっふーふふっふふっふふふっー」
がらんとした人の少ないオフィスに、女の鼻唄が響いている。まだ業務終了の時間までは、少しあるというのに、女は機嫌良さそうに鼻唄を歌いながら、ぱちぱちとキーボードを叩いている。
6つの向かい合わせになったデスクに居るのは、鼻唄を歌う女と、爽やかな雰囲気の男だけだった。1つだけ独立したデスクに、無精髭の男が居た。
2人の男、爽やかな雰囲気の湯野 颯介と無精髭の山上は、不可解な物を見るように、女を見ている。2人の視線に気付かない女、玉奥 むつは長い爪でキーボードを打っている。珍しく耳にイヤホンをして、音楽を聞きながら仕事をしている。
3人は今日ものんびりと仕事をしている。彼らが勤めている会社、よろず屋は胡散臭い見た目の山上を社長に、むつと颯介、アルバイトの谷代 祐斗の3人のスタッフが働いている。
仕事の内容は、妖怪や霊などが引き起こす事を解決する事だ。だが、そんなに毎日仕事があるわけではない。今日はまさに、仕事が全くなくゆっくりデスクで事務処理を行っているのだ。
山上は椅子をからからと鳴らして颯介の隣に並んだ。
「湯野ちゃんよ、あいつどうした?」
「さぁ…?」
いつも一緒に仕事をしている颯介でさえ、むつの機嫌の良さの理由が分からずに首を傾げている。