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復讐鬼  作者: 中村淳
第4章 『黒鬼討伐』
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第4章 37話 『運の悪い主人公』

龍平達が闘っている港から数百メートル離れたホテルの一室で、彼女は港のあちこちに仕掛けた監視カメラの映像を眺めていた。


「これは、なかなか大変なことになってますねぇ~」


彼女は、パソコンのキーボードにある言葉を入力していた。


「さてと、これを送信しますかねぇ~」


キーボードのenterを押し、ある人物にメールを送った。


「龍平君達が向かっているのはぁ~、Dブロックの工場ですかねぇ~」


彼女は、笑っていた。


「これから起こることが楽しみですよぉ~」


そのまま彼女は、机の上に置いてある刀に手を伸ばした。




「はぁ…はぁ…はぁ…、あと少しだ…」


龍平達は、走りながらDブロックの工場へと向かっていた。

龍平一人だけなら、自身の能力を使えば直ぐに行けるのだが、櫻子がいてはそうする訳にはいかない。


「ねぇ、龍平、後ろに敵が沢山いるよ!」


櫻子がそう言ったのを聞いたあと後ろを振り向くと、20人程の敵が自分たちを追っていた。

全員の動きが速かったので、恐らく強化系若しくはそれに近い能力を使っているのかのどちらかだ。


「くそが!こんな時に!」


三人でかかれば苦戦することはないが、それでも大幅なタイムロスをすることになる。


「私が、あいつらの相手するから二人は先に行って」


あゆなは、そう言うと清水遥から貰った新武器を使おうとしていた。


「分かった、後で絶対に来いよ!」


「分かってる!」


龍平と櫻子は敵をあゆなに任せ、そのまま先に進むことにした。


「龍平…あゆなちゃん大丈夫かな?」


櫻子は少し不安だった。

あゆなが強いのは以前の闘いで知っているが、それでも不安だった。


「大丈夫だよ。俺のチームで死んじまう奴なんていねぇからな!」


「そうだね!」


龍平は、笑顔で彼女にそう言い放った。

本当は、彼も不安なことが多かった。

あゆなや早苗、雪村に至っては師団三人の相手をしているのだ。

本当なら、残って一緒に闘うべきなのだが。

それでも、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

龍平は、自分の中にある不安を押し殺して、工場へ向かった。



数分後…

龍平達は、Dブロックの真ん中の工場の入り口の近くにいた。


「少しだけ、休憩するか」


二人は、2分だけ休憩することにした。

龍平が座ったとき、彼は嫌な匂いを嗅ぎとった。


「何だ…この匂いは?」


「もしかして、私臭ってる?」


櫻子がおそるおそる聞いてきた。

だが、龍平が匂ったのは櫻子からではない。

匂いの発生場所へ向かってみることにした。


「嘘だろ…、この人数を…こ、殺したのか…」


龍平がいた場所は、工場から出てきた廃棄物を置いておく場所だった。

そこには、大量の死体が横たわっていた。

首のない死体や、胴体が斬り裂かれている死体や、身体が真っ二つになっている死体もあった。

正確な数は分からないが、軽く見積もっても50はあるだろう。


「櫻子には、見せない方が良さそうだな…」


そのまま彼は、櫻子の元へと走っていった。

櫻子の元へと戻ると、彼女は龍平に何があったのかを聞いてきた。


「大量の死体があった…恐らく、この工場にいる師団の奴が殺ったんだと思う」


そして、その人物を自分は知っている気がした。

全ての死体が、鮮やかに切断されていた。

そんな事を出来るのは、龍平が知っている限りでは二人しか思い浮かばなかった。


「櫻子…お前は、ここで待機しろ。こっから先、お前を護れるか分からねぇから」


敵の脅威を感じ取った龍平は、櫻子に待機してもらおうとしたが、彼女はそれを拒絶した。


「嫌!、私も龍平と一緒に行くから!」


「ふざけんな!、これは遊びじゃねぇんだ!」


「分かってるよ!、それでも私は龍平の傍にいる!、私だって龍平が思ってるより闘えるよ!」


このまま言い合いをしていては、時間の無駄なので、龍平は諦めることにした。


「分かった。けど、これだけは約束しろ。俺が指示したら、逃げることを」


「分かった…」


「よし、行くぞ!」


龍平と櫻子は、工場に入っていった。




龍平と櫻子が入った工場は、工業関連の物を製造している工場だった。

鉄骨やレンガ、コンクリートや釘など色々な物が造られていた。


「入ってみたものの、何もねぇな。櫻子、ここら辺で索敵してみてくれ」


「オッケー、<風よ、全てを物語れ>」


櫻子の周りの空気が、櫻子に吸収されているように見えた。

彼女は風を操る能力を駆使し、周りの大気と自身の感覚をリンクさせることが出来る。

ある程度の範囲内なら、どこに何があるのかが分かるようになるのだ。

この能力を使っている時の櫻子は無防備になるので、あまり戦闘向きではなかった。


「どうだ?、何か分かったか?」


「この建物内には、龍平と私を除いたら一人しかいないよ。もしかして、その人に殺されたのかな?」


「そう考えるしかないだろうな」


「龍平!、危ない!」


櫻子の言葉の後、自分の頭上に鉄骨があるのを確認した彼は、咄嗟にそれを避けた。

彼が移動してから、僅か3秒後に鉄骨は落ちてきた。

櫻子の言葉がなければ、もしかしたら死んでいたかもしれない。


「ありがとうな」


「これは、貸し1だね」


「そうだな」


龍平は、鉄骨が落ちてきた所に視線を向けていた。

この落下が偶然なのか、誰かの手によって行われたのかを突き止めるためだ。

答えは後者だった。

その後、辺りを見回したが龍平達のいるフロアには鉄骨はなかった。

先程の落下は、敵が入ってきた時に落ちるように仕掛けていたのだろう。


「鉄骨があるフロアはここだな」


龍平と櫻子は、工場内の見取り図を確認し、鉄骨のあるフロアへと向かうことにした。


「このフロアに敵がいるの?」


「そうだと思う」


今から龍平達が向かおうとしているフロアには、エリアEへと向かうことの出来る階段が設置されているので、敵がいるとしたらここ以外にはあり得なかった。


「櫻子、頼みがある」


「何?」


櫻子に頼みを伝えてから、龍平は鉄骨のあるフロアへと向かった。



龍平がそのフロアに行くと、敵はそこで待ち構えていた。

敵がいたことに驚きはなかったが、相手が最悪だった。


「嘘だろ…俺、とことん運がねぇな」


『そうなるな、今回は黒鬼様の命令がある。あの時は見逃したが、今回は見逃さないぞ』


「どんな、内容だよ?」


『邪魔をするものは、殺しても構わない。だそうだ。あの穏やかな黒鬼様がこのような命令を出すということはかなり焦っているのだろう』


「そうかよ、その命令に異議はなかったのかよ」


『そんなものはない。黒鬼様がそう命じるのなら私はそれに従うまでだ』


「勘弁してくれよ…」


『私も極力、人の命など奪いたくはない。だが、黒鬼様の望むものが、殺戮の果てにあるものならそうするしかないのかもしれないな』


「そんなものに、何の価値もねぇよ!」


『そうかもしれないな、さて、これ以上無駄話をするのはお互いに時間の無駄だろうから、始めるとするか』


そして、大鎌を持った。黒鬼十師団の二番が襲いかかってきた。


『始めに名乗っておくとしよう。私の名前は、ミゼル・アルト・バーナードだ』


「そうかよ!、<我が鬼よ、我が身に宿れ>」


振り下ろされるミゼルの大鎌を龍平は、刀で防いだ。


「力なら、俺の方があるみたいだな」


『そうでもないな』


その言葉の直後、龍平の手に伝わってくる大鎌の重さが少しずつ増加し始めた。

最初は耐えられたが、徐々に重さを増してくる大鎌にもしかしたら自分の刀が折れるかもしれないと踏んだ彼は、後ろに跳び、ミゼルから離れようとした。


『そう来るだろうな』


そのまま、ミゼルはこちらに突進してきたのだ。

しかも、龍平の能力ですら、重いと感じた大鎌を片手で持っていた。


「マジかよ」


ミゼルは大鎌を横に振り、龍平の胴体を斬り裂こうとしていた。

龍平は直ぐに刀で防いだが、あまりの衝撃で後ろの方へと倒れていった。


「どうゆう能力だよ…よくあんな重いもん振り回せるよな」


急いで立ち上がり、今度は自分から仕掛けた。

ミゼルの元まで、急いで間合いを詰めミゼルに斬りかかった。


『なるほど、距離を詰めれば大鎌を振り回せないと踏んだのか』


「その通りだよ!、てめぇと遊んでる時間はねぇんだよ!」


龍平は、刀を振るった。

刀の刃が当たる寸前だった。

発砲音がした後、自分の右足の太ももに穴が開いた。


「は、どうゆうことだよ」


気が付けば、自分の右足から大量の血が流れていた。


『急いで止血した方がいい』


龍平は、ミゼルが左手に持っている物を見て理解した。


「拳銃かよ…」


『えぇ、その通り。お前は頭がいいが、初歩的な所はまだまだのようだな』


「お前もだよ、ミゼル・アルト・バーナード」


『どうゆうことだ…』


すると、ミゼルの左足をあるものが貫通した。

それは、高速で狙った所へ向かい、風を纏ったその矢は、絶大な威力を持っていた。


「お前も、まだまだだな」

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