表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐鬼  作者: 中村淳
第4章 『黒鬼討伐』
94/113

第4章 32話 『開戦』

8月7日午後6時

ステージの上に、一人の男が立っていた。

男は、少し弱々しい足取りだったが、何とかステージの中央に立ち、握っていたマイクを口に近付けた。


「皆さん…今日は我が社の生誕祭に御参加いただき、誠にありがとうございます」


男は、深く一礼をしてから、係員が持ってきたワイングラスを受け取った。


「それでは、今後とも我が社が成長し続けることを願い、乾杯しましょう」


男が、ワイングラスを上げ始めた時、男の影から細長い針のような物が伸びた。

その針は、男の背中に先端を向け、あと数センチで刺さろうとしていた。


『せめて、乾杯してからにしてあげますよ』


そして、男が乾杯しようとした時だった。


『遠藤五郎さん…貴方に恨みはないが、死んでいただこう。

<影よ、彼の者を突き刺せ>』


すると、影から伸びている針は、そのまま遠藤五郎の背中を突き刺そうとしていた。


「させないよ、<風の矢よ、彼の者を護れ>」


刺さろうとしていたその時、針の先端に風を凝縮して作られた矢が放たれ、針の先端に当たり、見事に針が刺さるのを防いだ。


『な…何者だ…』


その人物が、辺りを見回した時、その少年の存在に気付いた。


『なるほど…黒崎龍平か…』


その人物は、遠藤五郎の殺害を諦め、影から姿を現した。

遠藤五郎の影から人が飛び出した時、周りからは困惑の声が挙がったが、彼らは黙って気にしないことにした。


『どうして、分かったんですか?』


その人物は、龍平にそう聞いた。

すると、龍平は笑みを浮かべながら答えた。


「まず、最初にお前らがどうやって遠藤さんを始末するんだろうなって考えてたら、二つの可能性が出てきた」


『それは、一体何ですか?』


「1つは、派手に気を引いてから殺す。もう1つは暗殺に向いてそうな能力者を使う。俺が考えたのはこの二つだ」


『なるほど…』


「で、俺は恐らく後者だと思ったよ。だって、そっちの方がリスクが少ないからな」


派手に気を引くには、それなりの人員と時間を要する。

更に、気を引きすぎると赤城隼人や吉野裕介など強者が集まり、かなり不利になる。


「それと、お前らの中に暗殺にうってつけの能力者がいるってことを思い出したんだよ」


以上が、彼が遠藤五郎の暗殺を防げた理由だ。

だが、黒鬼十師団の一人はあまり焦ってはいなかった。


『なるほど…やはり貴方は賢いですね。

貴方の周りの氷柱は、奇襲された時に対応できるように用意してるんですよね?』


「さぁな…もしかしたらお前を殺す用かもな」


『そうですか…ならば早く使えばいいと思いますよ』


確かに、その方が早くていい。

あゆなも既に射つ気満々だったが、彼は射たせるつもりはなかった。


「そうやって、お前の口車に乗るつもりはねぇよ」


『と仰りますと』


「お前らのボスが、こんな雑な計画をたてるわけがねぇからな。お前の失敗もちゃんと計画に入ってるだろうからな」


『長々、賢いですね。それでは、今から本当の計画を実行しましょうかね』


「言っとくけど、空からの奇襲はおすすめしねぇぞ。無駄な死人が増えるだけだからな」


その人物は首を傾げた。


『何故、空から奇襲すると思ったんですか?』


「お前らのボスの能力の1つだよ」


『黒鬼様の?』


「黒鬼の能力の中に1つ、空間を形成する能力があるだろ?、あれってさ、俺たちがいる空間の一部をコピーして、別の空間に貼り付けてるんだろ?」


つまり、黒鬼の空間の能力は言わば、コピー&ペーストのような物だ。


『やれやれ…本当に賢くて困りましたよ。ですが、1つだけ抜け落ちてますね』


「何がだ?」


『陸と空からの攻撃は視野に入れているのに、海からの攻撃は視野に入れていない。ここは港ですよ』


その事を聞いたとき、龍平の表情は一変した。

先程までの余裕の笑みから一転、余裕のない焦り顔になった。


「ま、まさか…」


『さぁ、始めましょう…』


その人物が指を鳴らした次の瞬間。

それは起きた。

龍平達が、立っている所が僅かながら揺れ始め、小さな揺れから段々大きな揺れへと変わっていった。

最終的には、大きな地震となった。

辺りの工場や建物が揺れ始めた。

ガラス等が割れる音が辺りから響き始めた。

しかし、揺れ自体は数分で収まった。

その事に、櫻子は安堵した。


「良かった…収まって…」


だが、龍平の表情は先程と変わってはいなかった。


「よくねぇぞ、これは…」


『ここからだ…』


揺れが収まってから、数秒後にその脅威は龍平達の前に現れた。

かつて、日本で起こった大震災で数万人の犠牲者を出した自然の猛威が今、龍平達を襲おうとしていた。


『津波が来るよ…』


BブロックとDブロックの近くの海から押し寄せる強い波が、津波となって彼らに襲いかかってきた。

その津波はかなり規模が大きく、町の1つや2つは簡単に飲み干せる規模だった。

流石の彼らも、これを喰らっては生き延びることは出来まい。


『これは、君の想定外だったかな?』


誰もが、この事は想定しておらず、みな困惑していた。

彼らを除いて。


「あぁ…想定内だよ!、あゆな!、頼むぞ!」


龍平の背後に立っていた、あゆなは津波の方に手を向け、能力を使った。


「<凍り付け>」


次の瞬間、津波は一瞬で凍り付いた。



先程の昼休憩の時に龍平はこんなことを話していた。


「もしかしたら、海から攻めてくるかもしれないな」


すると、雪村がその意見に反応した。


「どうやって攻めてくるの?」


「いや、人じゃなくて物でだ。例えば、津波を起こすとか」


今度は、櫻子が反応した。


「仮にさ、そんなことが起きたとして、どうやって対処するの?」


そこで、あゆなが手を挙げた。

少しだけ自信満々の笑みを浮かべていた。


「もし、津波が来たら、私の能力で凍らせるよ」


そして、この話題は終わった。




龍平は今度こそ、してやったと思い、笑みを浮かべた。

ここまでは、順調に事が進んでいたからだ。


「これで、お前らの策は全部封じたぞ」


『じゃあ、これも想定内かな?』


また、指を鳴らした。

龍平はてっきり、ハッタリかと思ったが、実際は違った。

突如、あゆなが凍らせた津波の形をした氷が一瞬で水に戻った。


「な、一体どうゆうことだ…」


そのまま水は、四つの大きな水球を形成した。

形成されている近くには、二つの黒い人影があり、その二つは海の上に足場を作り、その作業をしていた。


「ま、まさか…」


『さぁ、始めましょう…開戦です』


海の近くにいた、二つの人影の1つがこう呟いた。


『<水よ、我が忠誠心を糧とし、彼の者達に絶望を与えよ>』


巨大な四つの水球は、四つのブロックに猛スピードで移動し始めた。


「ヤバイな…これは想定外だぞ…」


龍平が焦っていると、あゆなが急いで、チームメイトを周りに集めた。


「みんな!、私の近くにいて、私の能力で壁を造るから」


言われてから、直ぐ様彼女の元へ移動した。


「<氷の壁よ、私たちを護れ>」


彼女が氷の壁を形成してから、僅か数秒後。

龍平達がいるDブロックのど真ん中に水球が直撃した。

他のブロックにも同時に直撃し、尋常じゃない音を響かせた後、幾つかの工場を破壊した。

更に、水球は直撃した瞬間に破裂し、大量の水が辺りに流れ始めた。

そのせいで四つのブロックの足場はかなり水浸しになってしまった。

そして、この混乱に乗じて、黒鬼たちは奇襲を始めた。


『<門よ、開け>』


先程、龍平が述べていたように彼らは空から奇襲を始めた。

8月7日午後6時21分開戦

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ