第4章 29話 『休日』
龍平に心のもやを残したまま時は流れ…
8月5日
今日は、基地に行く用事も任務もないので龍平はゆっくりしていた。
次の日からは黒鬼討伐の作戦が始まるとのことだったので彼は今のうちに休養することにしていた。
「おはよう龍平!、もう朝だよ!」
龍平の部屋のドアを勢いよく開け、櫻子は朝の挨拶をした。
今までは一緒の布団で寝ていたが、先日龍平が購入した布団が届いたので今では別々で寝ている。
「おはよう櫻子…」
顔を洗い、歯を磨き、朝食を食べた。
これから何をするかは特に決めてはいなかったが、とりあえずは休みたかった。
この日に至るまでに、龍平のチームはある任務をしていた。
それが、櫻子の初陣だった。
その話しが語られるのは後の話だ。
「暇だよね龍平、どこか行こうよ!」
そろそろ言うであろうと龍平も身構えていたが、その予想が的中したのは少し残念なことだった。
「どこに行くんだよ?」
「う~ん、海とかは?」
「却下だ。明日から討伐が始まるんだぞ!」
その後、色々な言い合いの末、近くのプールに行くことが決まった。
電車で30分程の所にある大きなプールに龍平と櫻子は来ていた。
そこのプールには色々な施設があり、温泉やサウナ等もあるとのことだったので、今日の疲れをここで取ってから帰ることに龍平はしていた。
「龍平!、あそこのウォータースライダー行こうよ!」
「あんまりはしゃぐなよ櫻子」
水着に着替え、彼らはプールを満喫していた。
龍平のは学校で使用される様な物だったが、櫻子は違っていた。
彼女のは青色のビキニだった。
そのせいで龍平は目のやり場に困っていた。
「俺はどうすりゃいいんだよ…」
「ん?、どうしたの?」
顔を近付けながら、彼女はその事を聞いてきた。
一瞬だけ、照れてしまったが、何とか目をそらし誤魔化そうとしたが、櫻子には勝てそうになかった。
「別に何でもねぇよ」
「もしかして、私のビキニ姿のせいで目のやり場に困ってたのかな?」
図星だった。
昔から彼女は変な所で勘が鋭かった。
渋々こちらの敗けを認めることにした。
「そうだよ…」
「なるほどね…つまり龍平は私で変なことでも想像してたのか…幼なじみとしてガッカリだよ」
「想像なんてしてねぇよ!」
「まぁ、男の子だししょうがないか…」
「だから違うってば!」
勝手に変な誤解をされ、龍平は少し参っていた。
すると、櫻子はこちらに振り向き笑顔でこう言った。
「何てね…、龍平がそんな変なこと想像なんてしないよね!ごめんね!からかい過ぎちゃった」
「まぁいいけど…」
誤解が解けたので、彼らは早速ウォータースライダーへと向かった。
その後、昼食を食べたり、サウナに入ったりして楽しんでいた。
そのまま時は流れ、すっかり夕方になってしまっていた。
「そろそろ帰るか…」
「そうだね」
普通の私服に着替え、彼らはプールを後にしていた。
「ねぇ、龍平…明日からさ討伐が始まるんだよね…」
「そうらしいな」
駅に向かっている途中、彼女は少し不安げな表情をしていた。
「私さ、明日が来るのが怖い…あの任務を経験してから、私は平穏な日常の大切さを学べた」
「確かに、日常って大切なものだよな」
当分の間は自分たちに訪れることはない。
いつから、自分たちの日常がこうなってしまったのだろうか。
もう、分からなくなってしまった。
「龍平…私、生きて帰れるよね…またこうして龍平やチームの皆と旅行とかに行けるよね…」
「行けるよ…お前は絶対に死なせたりしねぇから、絶対にお前を護ってやるよ」
不確実な約束だ。
本当に守れるかは分からない。
もしかしたら自分が命を落とすかもしれない。
それでも、彼は約束した。
死なせないと…
「ありがと龍平…大好きだよ!」
そのまま彼女は後ろから龍平に抱きついてきた。
普段なら直ぐに振りほどくが、彼女の手が僅かに震えていたため少しだけこのままにしておくことに決めた。
「そろそろ帰るぞ」
「うん…」
そのまま彼らは家に帰宅した。
その日の夜…
かつて『七人衆』が利用していた、廃墟の一室に上野瀬名と彼女を除く六人の人物がいた。
「今日はありがとう…集まってくれて」
狐のお面を取り、彼女は集まってくれた人物達に感謝を述べた。
「それはいいけど、私たちを呼んだ理由は?」
集められた内の一人が瀬菜に聞いた。
すると、瀬菜は少し笑みを浮かべた。
「あなた達五人を殺すためだよ」
瀬菜が指を鳴らすと、四人の男女が椅子から倒れた。
「やっと、毒入りコーヒーの毒が効いたか…」
「ど、どうゆうこと?」
女は訳も分からず、混乱していた。
すると、瀬菜の隣に立っていた人物が女の背後に回り、首筋にナイフを当てた。
「何をするの!?」
「私の質問に答えてもらいますね」
瀬菜はナイフを持った人物にナイフを下ろすように指示を出した後、質問をした。
「じゃあ、質問しますね。何故あなた方は大地を裏切ったんですか…」
「そ、それは…」
「答えには気を付けた方がいいよ。そこの男が何をするか分からないからさ」
女は息を吸い、心臓の鼓動を落ち着かせてから彼女の質問に答えた。
「私たちが生き延びるためよ!、あのまま大地君の側に立っていたら私たちも殺されていたかもしれないじゃない!」
「そうですか…、じゃあ最後に一つだけ、大地が発明したアレはどこですか?」
「知らないわよ」
「もういいです…さよなら」
その直後、女は椅子から倒れた。
全身が痙攣をおこし始めた。
女は何が起こっているのか分からなかった。
「最後に教えてあげる。貴方はコーヒーを飲まなかったのに何故って思ってますよね」
「な…なぜ…」
そのまま女は答えを知ることなく死んでしまった。
「残念です」
『ねぇ、瀬菜。答えは何だったの?』
お面を着けている人物は彼女に答えを聞いた。
すると、瀬菜は笑いながら答えた。
「簡単なことだよ…無色無臭の神経ガスを周りに放ってただけ、最初からコーヒーに毒なんて入れるわけないじゃん」
『なるほどね、だからお面を外すなって言ってたのか』
「そうゆうこと、それじゃ行こっか」
彼女達は、廃墟に火を放ってからその場を後にした。
龍平は今、頭を悩ませていた。
「櫻子…何で俺の布団に入ってんの?」
風呂から上がり、寝る用意を終え、部屋に戻ると先に寝ていたはずの櫻子が自分の部屋の布団に入っていた。
「一緒に寝てもいい?」
「嫌だ…さっさと自分の部屋に行け」
だが、結局彼らは一緒の布団で眠ることになった。
明かりを消し、彼らは同じ布団の中に入った。
「ねぇ龍平、このまま時が止まればいいのにね」
「この状態で止まるのは困るな」
すると、櫻子は少しだけ笑った。
龍平もそれにつられ笑った。
「そんなに、私と一緒に寝るのが嫌なの?」
「まぁな、お前寝相悪いしな」
その事に彼女は少しだけショックを受けたらしい。
その後、むくれた彼女の機嫌を治すのに少し時間がかかってしまった。
「何か楽しいね」
「そうだな」
櫻子がうとうとしていたので、そろそろ眠る頃だと思った。
彼女が眠りについたら龍平はリビングのソファーで寝ることにしていた。
だが、彼女は抱きついてきた。
「龍平…必ず生きて帰ろうね」
「そ、そうだな」
先程と同じように震えていた彼女の手に自分の手を重ね合わせた。
そのまま彼らは眠りに落ちた。
このまま安らかな時間が続けばいいのにな…
その願いが届くことはなく。
運命の日は訪れようとしていた。




