第4章 26話 『観光』
旅館で朝食を済ませ、女性陣の希望が多かったので、彼らは旅館の近くの観光名所を廻っていた。
彼らが泊まっていた旅館の近くには、世界遺産に登録されている神社や寺などが多々あった。
流石にそれらを全て廻るのは時間的に不可能だと思い、それぞれの第一希望を廻っていた。
「ここのお寺の大仏…めっちゃくちゃ大きいね、龍平!」
「そんな大声じゃなくても聞こえてるよ櫻子…
確かに大きいな」
彼らは今、旅館から少し離れたお寺に来ていた。
そこは世界遺産にも認定されており、中でも大仏が一番の見所らしい。
「いやぁ~、本当に凄い大きさだよね」
「あんたがいなかったら本当に凄いのにね」
雪村の隣で早苗はそう呟いた。
昨夜の事は彼女も覚えているらしく、朝会った時はかなり顔を赤くしていた。
「あの時の早苗ちゃんは重かったよ…」
「うるさいな!」
バシッと早苗は雪村のことを叩いた。
何だかんだであの二人は仲がいいらしい。
「なぁ櫻子…そろそろ別の場所行かないか?」
「う~ん、うん!、そうだね」
そのまま彼らは別の場所に行くことにした。
彼らが次に向かったのは、とても綺麗な街だった。
歴史的な建造物が沢山あり、昔の生活がその土地には今でも受け継がれているらしい。
近くに川が流れており、そこでは代々続く伝統漁業をしている漁師が数名いた。
「あのさ、僕と早苗ちゃん、別行動してもいい?」
雪村がこう言うのには訳があった。
昨夜、早苗を彼が運んだ事により彼女は彼に一つ貸しが出来てしまったのだ。
それを返すために彼が出してきた条件が、一緒に観光をすることだった。
「行っていいぞ」
「オッケー!、それじゃあ行こっか早苗ちゃん」
嬉しそうにしている雪村とは違い、早苗の表情は少し曇っていた。
「行ってきます…」
そのまま彼らは、どこかへ行ってしまった。
仕方ないので、龍平は櫻子と二人で廻ることにした。
因みに、あゆながいない理由は体調不良だ。
今日の朝から身体がダルいらしいので旅館に居てもらうことにした。
「さてと…龍平!、ここ行こうよ!」
櫻子は行きたい所に指を置いた。
そこは彼らがいるは場所から少し離れていたが、彼は行くことにした。
「行くか!」
そのまま彼らはその場に向かって走り出した。
龍平達が観光を楽しんでいる頃…
とある建設会社にて、黒い鬼のお面を着けた二人組がその会社の社長室にいた。
『初めまして…私は黒鬼と言う者です』
二人組の内の一人が話し始めた。
黒鬼はとても穏やかな口調だったが、社長室にいた男の表情は怯えていた。
「一体何なんだ!、急に乗り込み…社員達を皆殺しに…」
続きを言う前に黒鬼はそれを遮った。
『皆殺しにはしておりません。私たちは貴方とお話しがしたいのです』
男は呼吸を整え、冷静になった。
だが、それでも男の表情から恐怖が消えることはない。
何故なら、男の真横には黒鬼とは別にもう一人いるのだ。
その人物は男に刀を向けており、あと数センチで刀の先端が刺さりそうなほどだった。
『あんたは、こっちのお願いを聞き入れたらいいんだよ…』
黒鬼とは別の人物が男に向かってそう言い放った。
「お…お願いとは何ですか?」
男は怯えながら口を開いた。
どれが、自分の最後の言葉になるかが分からない恐怖が彼のことを襲っていた。
『ある所の設計図が欲しいのです』
黒鬼は正確な場所を告げた。
『あそこは、あなた方が建設しましたよね?』
「は…はい、そうです…」
『そこの詳しい情報が載ってる設計図を私たちにください。さもないと貴方も廊下で転がってる人たちと同じ思いをしますよ…』
黒鬼はそう要求した。
男は渋々黒鬼に言われた通りの物を渡した。
『こちらのオリジナルは?』
黒鬼がそれを見てみると、それはコピーされた物だった。
「そちらのオリジナルは手元にはございません」
すると、隣に座っていた人物が刀を押してきた。
『どうゆうことだ?』
つまり、男の返答によっては死ぬかもしれないのだ。
「昨日、あんたらが欲しいと言った物を欲しいと言った嬢ちゃんがいたんだよ。俺はその子にオリジナルを渡しちまったよ」
『何故?』
すると、男は先程よりも怯え始めた。
身体も震え始め、額からはかなりの汗が流れた。
「その嬢ちゃんの目が怖くてよ…あれは人の目じゃない…」
『そうですか…、ありがとうございます。もう貴方に用はないので殺しますね』
話しを聞き終えると、黒鬼はあたかも自然のような振る舞いでそう言った。
「ど…どうゆうことですか!?。私は貴方の指示に従いましたよ!。それなのに何故?」
すると、黒鬼は漆黒の刀を鞘から引き抜き男に向けた。
『あなた方の会社は、違法労働、地域住民から不当に土地を奪い、抗議した者には痛みを与えてましたよね?』
「そ…それは…」
『例え、貴方達にどんな事情があろうと弱いものを虐げるのは好みません…』
そして、黒鬼は漆黒の刀を振り上げ、最後に
『さようなら』
男は、そのまま漆黒の刀に命を奪われてしまった。
『よろしいのですか?、オリジナルでなくて』
『別に構わないよ…それにオリジナルを彼女が奪ったのならどうすることも出来ない』
『そうですね…』
『行くよ…』
そのまま彼らはその場を後にした。
その頃…
龍平達が泊まっている旅館の一室に彼女は泊まっていた。
その手には設計図があった。
「今ごろ黒鬼たちはぁ~、取りにぃ~行ってるんでしょうねぇ~」
そのまま彼女はオリジナルの設計図を見ていた。
そして、ある箇所に丸を付けていた。
「さて…悪いですけどぉ~、消えてもらうのは黒鬼…貴方ですよぉ~」
さまざまな陰謀や思惑が交錯している中。
黒崎龍平達は博士のヘリコプターで帰宅していた。
この日が、彼が穏やかに過ごせる最後の夏休みとなった。




