第4章 23話 『夏祭り』
7月7日午前10時
何かを吸い込む音が理由で龍平は目を覚ました。
時計を見ると、この時間だったのでかなりの時間を寝ていたらしい。
昨日の服装のまま寝ていて少し臭かったので風呂に入ることにした。
階段を降りると、居候中の櫻子が掃除機を使って掃除をしていた。
「おはよう櫻子…」
「おはよう龍平!、よく寝れた?」
「普通に寝れたよ」
昨日は、龍平を悩ませる一番の原因を感じることなく眠れたので快眠だったと言える。
そのまま彼は、風呂場に行きお湯に浸かった。
疲労が溜まっていた彼の身体からすると極上の心地よさだった。
風呂から上がり、身体を拭き、服を着ると彼は携帯を手に持ちあるサイトを開いた。
そこで、ある商品を見つけ購入ボタンを押した。
「これでよし!」
「何がよしなの?」
すると、櫻子は脱衣場の外の所から顔を出して聞いてきた。
首を傾げていて、とても可愛らしかった。
疲労がとれたせいか、龍平の心にも少し余裕が生まれ、こういった事を考えれるようになってきた。
「何でもないよ」
「じゃあいいけど…」
少し不機嫌になってしまった。
そういった所も可愛らしいと今なら思える。
今日から少しの間はゆっくり出来るらしい。
と言っても、翌日からは学校があるのでそんなに変わらない。
「そんなに拗ねるなよ、今日さどっか遊びに行かないか?」
先程までの不機嫌な顔ではなく、満面の笑みで頷いた。
夏休みにどこかへ遊びに連れて行ってもらえる子供のような笑顔だった。
その後、櫻子のリクエストで近くの神社の祭りに行くことにした。
櫻子は急いで自分の家に行き浴衣を取りにいった。
龍平はめんどくさいのと動きづらいことを考え私服で行くことにした。
7月7日午後3時
櫻子と待ち合わせ場所の公園にいた。
勿論、竹刀袋を携えて。
「あ~あ、本当にこれ邪魔だなぁ~」
しかし、これがなければ外で敵に襲われた時にどうすることも出来ないのだ。
最近は色々なことがあったので彼がこうすることは当たり前のことだ。
「頼むから、今日は何も起きんじゃねぇぞ」
もし、願いを叶えてくれる神様がいるなら叶えてもらいたい。
そんな事を考えていると、櫻子が小走りでやって来た。
「ごめん!、遅刻しちゃった」
「いいよ、俺も今来たとこだし」
実際に彼が待っていた時間は2~3分程度だったので本当についさっききたところなのだ。
「とりあえずさ、腹減ったから祭り行こうぜ」
「うん!、行こう!」
そこから歩くこと数分…
目的地の神社に着いた。
そこからは二人で色々な所を回った。
射的や金魚すくい、焼きそばやたこ焼きなど色々回った。
あっという間に時は流れ、残すところは花火だけになった。
「龍平!、そろそろ花火あるから移動しよっか」
「そうだな、移動するか」
移動しようとした時、背後から声を掛けられた。
「よぉ、そこの彼女!、俺らと花火見に行かない?」
金髪をしてチャラついた男が三人、櫻子に声をかけてきた。
ドラマとかであるナンパと言うやつだった。
「私は、いいです…彼と見るので」
丁重に御断りをした。
だが、ナンパと言うものはこの程度では引かないらしい。
「いいじゃん!、俺らと見た方が絶対楽しいよ」
「そうそう、コイツとはまた今度でいいじゃん!」
指を指された。
つまり彼らにはつまらない奴認定されているらしい。
流石に少し苛ついたので、助けることにした。
「あの…、彼女が嫌がっているのでお引き取り願えませんか?」
櫻子の表情を見ると、少し困っており、目線は完全にこちらに向いていた。
「うるせぇな、誰もお前に話しかけてないんだよ!」
「俺らが用があるのは、そこの女の子であってお前じゃないんだよ!」
「痛い目に遭う前に彼女置いていけよ!」
優しくお引き取り願おうと思っていた彼の優しさを彼らは無駄にしてしまった。
正直、この手の輩など彼が普段から相手にしている者に比べたら可愛いものだ。
動きも遅く、力もない。
ぶちのめそうかと思えば、秒殺で済む。
「もう勘弁してくれませんかね…」
無駄な労力を使うのはめんどくさい。
そう思い、戦闘は避けようとしていた。
「はいはい、そうですね!」
三人の内の一人が龍平を殴り飛ばした。
その勢いで龍平は転んでしまった。
「だから言ったろ、さっさと消えろってよ!」
「この人はボクシングやってるからな!」
「俺らの優しさを無駄にしやがって」
この時、龍平の堪忍袋の緒が切れた。
櫻子は心配してこちらに駆け寄ってきたが、もう遅かった。
「龍平!、殺しちゃ駄目だからね」
「そんなことはしねぇよ」
そのままゆっくりと、彼らの元に歩いた。
「なんだ、お前もう一発喰らいたいのか?」
折角の休日を台無しにされたので、少しばかり痛い目に遭わせる事にした。
「俺の優しさを無駄にしやがって…」
「今、何か言ったかな!」
チンピラの一人が殴りかかってきた。
ボクシングをやっているとの事でそれなりに速かった。
龍平はそれを左手で受け止めた。
「お返しだ…俺の休日を台無しにしたお礼をくれてやるよ!」
龍平は男をこちら側に引き寄せ、男の顔のど真ん中をぶん殴った。
そのまま殴り飛ばし、残りの二人の所にその男が当たるようにした。
男達はその後、龍平と櫻子の前から姿を消した。
「櫻子、大丈夫か?」
「私は大丈夫だけど、龍平は?」
殴られた箇所を指で指しながら聞いてきた。
あれよりも痛いものを彼は何度も受けてきたので別に何ともなかった。
「俺は、大丈夫だ。花火を見に行こうぜ!」
すると、空に何かがあがる音がした。
それは、そのまま破裂し大きな爆発音の後、綺麗な花を咲かせた。
「間に合わなかったね」
「そうだな」
仕方ないので、今いるところから花火を眺めていた。
その花火はとても綺麗で鮮やかだった。
過去に数回、花火を見ているが今年のは特に素晴らしかった。
「葵と見たかったな…」
あまりの素晴らしさについ口に出してしまった。
言った後に気付き、直ぐ様口を塞いだが遅かった。
「悪い…、忘れてくれ」
今の発言で櫻子を傷付けてしまった。
そう思っていると。
「私も思った…この花火を葵ちゃんにも見せたかったって」
「なぁ櫻子…俺は…」
それを遮って櫻子は話し出した。
「龍平…分かってるから。何も言わないで」
そのまま、花火が終わるまで彼らは何も話さなかった。
花火が終わり、帰路についていると。
「龍平…、来年も一緒に見ようね…」
「そうだな…」
こうして二人は約束を交わした。
しかし、この約束が果たされることはなかった。
この時の彼らは、この約束が果たされる未来を夢見ていた。
きっと、いつか…
そのまま彼らは帰宅した。




