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復讐鬼  作者: 中村淳
第4章 『黒鬼討伐』
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第4章 20話 『死の刃』

小学校のグラウンド並の広さの訓練場に二人の男が立っていた。

一人は白い髪の美少年。

もう一人は病み上がりでボロボロの少年。

字面だけを見たら最悪なのだが、二人がその場に立っている理由は明確だった。


相手を殺す…


ただそれだけだった。


「さてと、龍平君始めようよ。僕らの殺し合いをね」


雪村は鞘に直していた刀を引き抜き、手に持った。

先ほどまでの彼とは思えない禍々しい殺気だった。


「そうだな…」


龍平も、鞘から刀を抜いた。

しかし、彼にはどうしても解けない一つの疑問があった。


「なぁ雪村、何でお前はそんなに俺に拘るんだ?」


彼が自分に拘っている理由が龍平はとても気になっていた。

すると、雪村は薄く笑った。


「それはね、龍平君が強い人だからだよ」


「どうゆうことだ?」


「前にさ、早苗ちゃんを唆して君を殺させようとしたことがあったでしょ?」


龍平が入隊してからすぐにあった出来事だ。

あの日の衝撃を龍平はいまだに覚えていた。


「あったな」


「その時の君の動きは、とても洗練されていて無駄の無い動きだったことを僕は覚えているよ。それ以来何度か君と同じ戦場に赴く事があったけど、あのとき程の洗練さが無くてがっかりしていたよ」


そこで、龍平への興味を失っていればありがたかったのだがそうはならなかった。


「でもね、『雪鬼村』での闘いの時の君の動きは本当に素晴らしかったよ。間違いなく君は僕を満足させてくれる強者の一人だと実感したよ」


「そうかよ…」


「龍平君はさ、僕が何をして生きてきたか何となくは分かってるでしょ?。君からは僕と同じ匂いがするからね」


そう言われてしまった。

雪村が今まで何をして生きてきたのかは彼の動きと命の見方からして、ある一つの答えが浮かび上がった。

だが、龍平はその事を言うのをやめた。

これを言ってしまったら、自分の何かを抉られる気がしたからだ。


「だんまりか、まぁいいよ、どうせもう喋ることはないんだからさ」


雪村は刀を握っている手に力を込めた。

そして息を軽く吸った。


「言っとくけど、僕の死の刃から逃れた者は誰もいないからね」


そのまま彼は両足に力を込め、龍平の懐まで跳躍した。

雪村は素早く、刀を龍平の首を斬るために振るった。

龍平が気付いたのは刀が首元に当たる寸前だった。

彼は急いで、身を低め雪村の懐に拳を入れた。

よろけた隙に龍平は距離をとった。


「はぁ…はぁ…、マジかよ…」


あと少し遅れていたら、きっと彼は死んでいただろう。その事に少しだけ恐怖を覚えた。

そして、龍平は覚悟を決めた。


「雪村!、全力で行くからな…、後悔するなよ!」


「いいね…、そう来ないとつまらないよ」


「<我が鬼よ、我が身に宿れ>」


数時間ぶりに鬼の能力を使用した。

治っていなかった部分の傷を修復し始めた。

左肩の治りきっていない傷がみるみる塞がれていった。


「なるほど、接近戦に持ち込まれるとヤバイね。

<大地よ、彼の者を握り潰せ>」


龍平の足元の鋼鉄で出来た床が、人の手の形となり龍平を握り潰そうとしてきた。

彼は手が開いているうちに刀をを一回転させ、それらを斬り裂いた。

目的を果たすことなく、鋼鉄は粉々になっていった。


「次はこっちから行くぞ」


龍平は雪村に向かって歩き出した。

普段ならとてつもない速さで距離を詰めるが今回はしないことにした。

理由は雪村の能力にあった。


「何でゆっくり近づいて来るの?、いつもみたいに速く来てよ」


「てめぇの能力がめんどくせぇからだよ」


「もしかして僕の能力もう分かってるの?」


雪村の問いに龍平はめんどくさがりながら答えることにした。


「お前の能力は多分だけど、物質を変形させて操るものだろ?。発動条件はお前が触れたか、もしくは眼で見たものか、だろ?」


「正解だよ、凄いね龍平君」


拍手をしながら彼は笑っていた。

だが、本当にこの能力は厄介な物だった。

仮に龍平の持つ刀を変形されたらとてもじゃないが勝ち目はない。


「やっぱ、歩くのやめるは」


龍平は残り数メートルの所で足を止め、刀を振るった。

以前、彼は斬撃のような物を放ったことがあったのでもしかしたらいけるのではと思いやってみた。

すると、彼の予想は当たっており刀を振るった直後、衝撃波のような物が生まれそのままそれら雪村進一の方へ放たれた。

雪村はそれを刀で防ぎ、床に叩きつけた。

その一瞬だけ、彼に隙が出来た。

ほんの一瞬だったが、龍平は一気に距離を詰め彼の鳩尾に拳を入れた。


「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…!」


勢いよくぶん殴った。

雪村の身体はそのまま、訓練場の壁へとめり込んだ。

これで終わったかのように思えた。


「はぁ…はぁ…はぁ…、目は覚めたか…」


昼間の闘いがあり、龍平はかなりの疲労があり正直立っているだけでも辛かった。

もうこれ以上向かってこられるのは困るので息の根を止めようとしたが、彼もそんなに残酷にはなれなかった。


「うん…、君の一撃のお陰でかなり目が覚めたよ。僕はぬるかったて…」


雪村からの鬼の波動と殺気がとてつもないほど濃くなっていた。

何かがおかしいと龍平は気づいた。

そもそも、あれだけの勢いで人体の急所の鳩尾を殴られているのになぜ彼は普通に喋れているのかが不思議だった。

更に殴った時の感触が何か変だった。

まるで鉄を殴ったかのような感触だった。

この事から導き出される答えは…


「お前、俺がぶん殴った時鞘で鳩尾に直撃しないように守ったんだな」


龍平が殴る瞬間、雪村は鞘を自身の鳩尾の真ん前におき直撃するのを防いだ。

しかし、あまりに強い一撃だったので耐えきれず鞘を持っていた左腕の骨は幾つか折れ、衝撃を流しきれず壁へとめり込んだのだ。


「君は本当に厄介だな…」


「そうかよ、お前も相当厄介だぞ」


雪村は壁から既に抜けて立っていた。

頭から多少の血が流れていた。

しかし、頭の傷の方は治りかけだった。


「龍平君、君はどうしてそんなに頭が回るんだい?」


「どうゆう事だ?」


「君はさ、普段はそんなに頭のキレはないのに戦闘になると僕を凌駕するほどの頭のキレがあるよね。例えば、敵の能力を特定するのと能力の弱点をつくこと。そして相手の隙に飛び込む度胸。凄いね君は」


言われてみればそうだった。

何故か自分は相手の能力を瞬時に見極めることが出来ていた。

普段は数学の三角形の角度を求めることもままならいない程、学業の方はよくないのに。

すると、雪村は不適な笑みを浮かべながら口を開いた。


「つまりは、君も僕と同じ人種なんだよ。人を殺すのが楽しくて楽しくてしょうがないんだよ。

強者と闘うのが気持ちいいんだよ。そしてそれに勝った時の解放感もね」


「てめぇと一緒にすんじゃねぇ!」


龍平は雪村の頬を殴った。

鬼の力で殴ったため、雪村はかなり吹っ飛んだ。


「痛いなぁ~、認めた方が楽だよ?」


「お前とは違う…、俺は護るべき人のために闘う!」


龍平が闘っていく理由はこれだった。


もう大切な誰かを失いたくない…


きっとその想いが彼を強くするのだろう。

しかし、雪村には理解出来なかった。


「つまりさ、君は人を護るためなら人を殺してもいいという考え方なんだね?」


「護るためならな」


「ふーん、相手にもさ護るべきものがあったかもしれないのに君はそれを奪うってことだよね?」


「どうゆう意味だ?」


「君はさ、相手が自分みたいな人でも殺すってことだよね。君の正義は歪んでるね」


自分が歪んでいることなど、随分前から知っていた。櫻子や皆の為とはいえかなりの人を殺してきた。いつかは報いを受けるべきなのだ。

でも、それは今じゃない。


「俺は歪んでるよ、でもそれで大切な人を護れるなら俺はいくらでも歪んでやる」


きっと自分と雪村は似ている者たど思う。

同じように歪んでいる。同じように目的がある。

けれど交わらない。


護るために…人を殺す


楽しむために…人を殺す


この二つが交わることはきっとない。

否、交わってなど欲しくはない。

だから次で最後にしよう。

歪んでいる者同士の殺し合いを…


「雪村…次で決着をつけようぜ」


「いいよ…」


お互いに距離を詰めた。

そして、自然と同時に止まった。

特に意味はない。

ただ、不思議だった。

自分たちが向かい合っているこの光景が。

龍平が恐らく普通の人生を歩んでいたらきっと出会うことのなかった人種が今、目の前に立っている。


「僕から行かせてもらうね、<鋼鉄よ、我が意思に応え、彼の者を潰せ>」


雪村の近くの鋼鉄は大きな兵士のような物になりこちらに向かってきた。

右手には巨大な剣、左手には巨大な盾。

しかし、龍平はこれに構わず雪村の方に向かった。


「雪村ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「龍平ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


お互いがほぼ同時に刀を振るった。

そして刀は衝突した。

ほんの僅かな差だった。

その差が何だったのかは分からない。


単純に使われた『鬼鉱石』がこちらの方が優れていたのか。


単純にこちらの方が勢いが強かったのか。


単純に自分が勝つ運命だったのか。


その差は分からないが、はっきり言えることがある。


自分の勝ちだと


刀が衝突した瞬間、相手の刀にヒビが入り、そのまま砕けた。

自分の方には何もなく、そのまま斬ればいいだけの話しだったが。

そのまま刀を握っている手を離し、相手の顔面をぶん殴った。

殴った時にお互いの何かが晴れたような気がした。




暫くしてから、彼は殴った相手の元へと歩いていった。

殴られた相手はダメージで一歩も動くことは出来なかった。

つまり、相手を殺すことは出来る。

しかし、彼はそうするつもりはなかった。


「俺の勝ちだな、雪村…」


地に倒れている雪村進一は見下ろしながら、彼は黒崎龍平はそう言い放った。

雪村が殴られたと同時に鋼鉄の兵士は粉々になった。


「僕の負けだよ龍平君…、一つ疑問があるんだけどさ、どうして僕を殺さないの?」


「お前を殺したら…俺らのチームにとって損害があるからな」


「僕をチームに入れてくれるのかい?、君を殺そうとした僕を…」


「入れてやるよ、まぁ水本は嫌がるだろうけど」


「確かにそうだね」


そこで、龍平も倒れた。

最早立っている体力すらない。


「龍平君…僕はいつか君を殺すよ…」


「好きにしろよ…そんときはまたぶん殴るだけだ…」


きっと交わることはない…


お互いにその事は分かっている…


けれど、今だけは…


今だけは交わろう…


「雪村…俺に負けたからお前ジュース奢れ…」


「君に勝者の特権で僕にジュースを奢る権利をあげるよ」


「いらねぇよ」


暫くしてから、ボロボロの二人は言っていた通りジュースを買いに行くことにした。


「櫻子ちゃん達には何て言うの?」


「自販機探すのに時間かかったでいいや…」


「言い訳のキレはないね」


「うるせぇよ…」


お互いに笑いながら、彼らは訓練場を後にした。

そしてこの言葉通り、彼らが自販機を探しジュースを買えたのは30分後のことだった。

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