第4章 17話 『違和感の正体』
吉野裕介が放った特大の龍は『黒鬼』と赤城隼人を直撃しようとしていた。
『無駄だよ。<火よ、消えろ>』
黒鬼がそう言うと、火は音をたてて消えた。
赤城隼人は、この音を何処かで聴いたことがあった。
だが、どこだったのかは思い出せなかった。
「嘘でしょ…、俺が撃てる中で一番大きいやつを撃ったのに」
吉野裕介は落胆していた。
『黒鬼』は少し笑った。
『面白いですねあなた方は、あなた方と闘うのは楽しいです』
「僕らはあんまり楽しくはないけどね!」
そのまま赤城隼人は『黒鬼』に斬りかかった。
手首を捻り、色々な角度で斬りかかったがその全てを防がれてしまった。
「何故…、切断出来ないんだ」
赤城隼人と吉野裕介の共通の悩みがこれだった。
『黒鬼』の持っている刀を切断し、無力化出来れば拘束出来るのだ。
彼らがここで『黒鬼』を殺さないのには理由があった。
まず、『黒鬼』を殺された怒りで黒鬼十師団が暴れ出さないようにするためなのと。
それから…
「全く…博士も面倒な事を頼んでくれたもんだよ」
清水遥に頼まれたからである。
彼らは理由を聞かされないままここに来たのだ。
少しばかり苛立ちはあるが、『黒鬼』を拘束出来たら教えてくれるらしいのでそれを励みに頑張っているのだ。
「隼人…あんましやりたくないけど、拘束は止めて殺害に変更するよ」
すると、吉野裕介の両手は燃え始めた。
彼の熱で自身の手の皮が少しずつめくれ始めた。
「裕介…馬鹿な真似は止めた方がいいよ」
必死で彼を止めようとしたが、彼は聞く耳をもたなかった。
『次で最後かな…』
今度は、『黒鬼』から攻めてきた。
それに赤城隼人は応戦した。
何度も何度も刀の打ち合う音が響いた。
打ち合っている最中、赤城隼人の中にはある考えが浮かんでいた。
普通ならありえないが、実際に起こっている問題の辻褄はこれで全て解決してしまうのだ。
「そんなはずは…」
『こんな時に考え事は止めた方がいいですよ』
刀から感じてくる重みが変わった。
その重みで腕が少しだけ痺れてきた。
そんなに長くはもたないので、彼は隙をつくることにした。
必死で相手の攻撃を捌いていると、その機会は訪れた。
『黒鬼』が刀で突きをしてきたのを見計らい、赤城隼人は自身の刀の側面でそれを受けた。
そのまま彼は後方へ、飛んだ。
その瞬間、『黒鬼』の身体が少しだけ前のめりになり隙が生まれた。
普通の人なら、これぐらいでは攻撃をすることは不可能だが、この場に普通の人など居なかった。
『黒鬼』の態勢が崩れた瞬間、両足に力を込めていた吉野裕介が『黒鬼』の脇腹に自分の熱した手を置こうとした。
あと数㎝の所でそれは起こった。
『残念でしたね…』
触れる寸前に吉野裕介の両手の火が消えていた。
火が消えたことにより、彼の痛々しい両手が露になった。
『なるほど…あなた方の狙いはこれでしたか。
吉野さんの能力で操られている熱を私に与え、そのあと大火力にして私を灰にしようとしていた訳ですか。残念でしたね』
何もかも読まれていた。
だが、こちらもやられてばかりではなかった。
赤城隼人はこの光景を見て、自身の疑問が解決されたのだ。
「やっぱり…そうか…」
「どうしたんだ?隼人」
赤城隼人の様子が変なことに気付いた吉野裕介はそう言った。
「裕介…『黒鬼』の能力が分かったよ」
その言葉を聞くと、吉野裕介の表情は大きく変わった。先程まで苦痛で顔を歪めていたが、今は驚きを隠せていなかった。
「それで、奴の能力はいったい何?」
「奴の能力は…」
そこで彼はとんでもないことを聞くことになった。




